日本のコホート研究が示す、血圧と心血管死亡の関係
2025年に発表された日本のコホート研究のメタ分析によると、未治療の高血圧者では血圧が高いほど心血管疾患(CVD)死亡リスクが増加し、特に 軽症高血圧群で最も高い人口寄与割合(PAF)が示されました。高血圧の予防と管理がCVD死亡リスクの低減に重要であることを支持する結果です。
研究の概要
参加者:
- 日本の10のコホート研究から70,570名(平均年齢59.1歳、女性57.1%)
- 未治療者 57,656名(81.7%)、治療中の高血圧者 12,914名(18.3%)
介入:
なし(観察研究のため)
比較:
日本高血圧学会(JSH)2019ガイドラインの血圧分類を用い、未治療群の血圧を6段階に分類
- 正常血圧(<120/<80 mmHg)
- 高値正常血圧(120–129/<80 mmHg)
- 高値血圧(130–139/80–89 mmHg)
- Grade I高血圧(140–159/90–99 mmHg)
- Grade II高血圧(160–179/100–109 mmHg)
- Grade III高血圧(≥180/≥110 mmHg)
アウトカム:
総心血管疾患(CVD)死亡・脳卒中(虚血性脳卒中、脳内出血)・虚血性心疾患・心不全
研究デザイン:
EPOCH-JAPANのデータを用いたメタ解析(観察研究)・Cox比例ハザードモデルを用いた解析
結果:
- CVD死亡率は血圧が高くなるほど上昇し、Grade III高血圧(BP ≥180/≥110 mmHg)では正常血圧の 約4倍のリスク(HR=2.58)
- Grade I高血圧(140–159/90–99 mmHg)の**PAFが41.1%**と最も高く、CVD死亡の大きな要因
- 10年間のCVD死亡累積リスクは、正常血圧群で1.1%、Grade III高血圧群で4.3%
文献:
Satoh M, Ohkubo T, Miura K, Harada A, Tsutsui A, Hozawa A, et al. Long-term risk of cardiovascular mortality according to age group and blood pressure categories of the latest guideline. Hypertension Research. 2025. https://doi.org/10.1038/s41440-025-02151-w
研究の背景
- 高血圧は心血管疾患(CVD)の主要な危険因子 であり、世界的な罹患率と死亡率に大きく寄与する。
- 日本のEPOCH-JAPAN研究では、 血圧(BP)とCVD死亡リスクの関連 が示されてきたが、過去の分析では 降圧治療を受けている参加者も含まれていた。
- 2019年の日本高血圧学会(JSH)ガイドラインの改訂 により、血圧の分類が変更され、米国の基準とより整合する形となった。
- 新しい血圧基準に基づくCVD死亡リスクの再評価 は、臨床実践の改善に役立つ可能性がある。
- そこで、本研究は、 未治療者に限定した血圧カテゴリーとCVD死亡リスクの関連 を明らかにすることを目的とした。
交絡因子
調整済みの因子(Cox比例ハザードモデルで調整)
- 性別
- 年齢
- 総コレステロール値
- 喫煙歴(元喫煙者、現在喫煙者)
- 飲酒歴(元飲酒者、現在飲酒者)
- BMI(<18.5および≥25 kg/m²)
- 糖尿病の有無
調整されていないが影響があると考えられる因子
- 食塩摂取量(日本人は食塩摂取量が高く、高血圧のリスク要因となる)
- 身体活動量(運動不足が血圧上昇と関連)
- 社会経済的要因(収入や教育レベルによる健康格差の影響)
- 精神的ストレス(ストレスが血圧上昇を引き起こす可能性)
- 家庭血圧(オフィス血圧のみ測定され、家庭血圧が考慮されていない)
研究の限界
- 追跡期間中の治療状況が不明
- 研究開始時に未治療だった人も、追跡期間中に降圧薬を開始した可能性がある。
- 単回測定のオフィス血圧のみを使用
- 家庭血圧や24時間血圧の測定がなく、白衣高血圧や仮面高血圧の影響を考慮できていない。
- アウトカムがCVD死亡に限定
- 心筋梗塞や脳卒中の発生率は解析されておらず、非致死的なCVDリスクを評価できない。
- 研究対象の年代がやや古い
- ベースライン調査は1990年代が中心であり、近年の降圧治療の進歩を反映していない可能性がある。
- 食塩摂取や運動習慣などの生活習慣因子が調整されていない
- 日本人の塩分摂取量が高いため、食塩制限がどの程度影響するか不明。
- 高血圧治療の普及による影響
- 近年の治療改善により、未治療者の血圧分布が過去と異なる可能性がある.