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All rights reserved<![CDATA[第三者による診療録レビューをAIで拡張する]]>https://paragraph.com/@smaller/ai-augmented-chart-review NJmWKls57gc7E75zWtWAThu, 16 Jul 2026 06:22:13 GMT

前の記事「 データに基づく標的型デ・インプリメンテーションを日本の医療政策へ」では、レセプトデータの役割を次のように位置づけました。

レセプトは、査定対象を自動的に決定する装置ではなく、追加確認と改善支援の優先順位を決めるスクリーニング装置である。

データに基づく標的型デ・インプリメンテーションを日本の医療政策へ

Small Medicine Jul 15, 2026

必要なのは、データによって対象を絞り込み、臨床的妥当性を確認し、原因に応じて診療行動と制度を変える、標的型デ・インプリメンテーションです。

0 collected Collect

レセプトからは、どの医療機関で、どの検査や処方が多いかを把握できます。しかし、患者の症状、診察所見、治療経過、検査を選んだ理由までは十分に分かりません。

したがって、レセプト上の外れ値を見つけた後には、診療録を確認する必要があります。

問題は、この診療録レビューに大きな費用と人手がかかることです。

医師や看護師などの専門職が、一件ずつ長い診療録を読み、必要な情報を探し、適応の有無を判断する作業を続けるなら、確認できる症例数は限られます。全国規模で実施することも現実的ではありません。

そこで提案したいのが、 AIを活用した第三者による診療録レビュー です。

ただし、AIに「この診療は不適切である」と最終判定させるのではありません。

AIを最初の読み手として使い、人間の専門家が最終判断を行う。

この役割分担が基本になります。

レセプトと人間の間に、AIという第二のスクリーニングを置く

AIを活用した診療録レビューは、次のような三段階で構成できます。

第1段階:レセプトで対象を絞る

まず、レセプトデータから、低価値医療の実施率が持続的に高い可能性のある医療機関を抽出します。

単純な件数ではなく、患者数、年齢、併存疾患、診療科、施設規模などを調整し、同じ条件の医療機関と比較します。

ここで選ばれるのは、「不適切な医療機関」ではありません。

あくまで、追加確認の優先度が高い医療機関です。

第2段階:AIが診療録から判断材料を抽出する

対象となった医療機関の診療録から一定数の症例を抽出し、AIに読ませます。

AIに求めるのは、自由な医学的意見ではなく、あらかじめ決められた項目の抽出です。

例えば、急性腰痛に対する早期画像検査を評価する場合には、次のような情報を整理させます。

重要なのは、AIに結論だけを出させないことです。

例えば、

「低価値医療である可能性が高い」

という回答だけでは、第三者は検証できません。

AIには、

「2026年4月10日の診療録に外傷なしと記載されている」

「神経脱落所見の有無は記載されていない」

「悪性腫瘍既往については確認できない」

というように、 根拠となる記載と情報の欠落を分けて提示させる 必要があります。

第3段階:人間の専門家が最終判断する

AIが整理した情報を、第三者の医師や多職種チームが確認します。

最終的には、

などに分類します。

AIが行うのは判決ではなく、証拠の整理です。

最終的な適切性の判断、医療機関へのフィードバック、査定や指導の要否は、人間が責任を持って決定します。

AIは診療録の要約より構造化に向いている

診療録レビューにAIを導入する際、単に「このカルテを要約してください」と依頼するのは危険です。

自由な要約では、AIが重要と考えた情報だけが選ばれ、都合の悪い情報や例外条件が抜ける可能性があります。

より安全なのは、評価項目を事前に固定し、構造化された形式で回答させることです。

例えば、出力を次のように限定します。

AIによる診療録レビューの出力項目

  1. 対象となる診療行為

  2. ガイドライン上の例外条件

  3. 診療録に記載された該当所見

  4. 記載されていない重要所見

  5. 検査・処方の理由

  6. 代替診療や経過観察の有無

  7. 根拠となる記載日時と原文

  8. AIの確信度

  9. 人による確認が必要な論点

また、AIには次の原則を守らせます。

この設計により、AIは「臨床判断を代行する存在」ではなく、「大量の文書から必要な情報を拾い上げる存在」になります。

AIを使うことで期待できる効果

1.より多くの症例を確認できる

人間だけで診療録を読む場合、確認できる症例数は限られます。

AIが事前に情報を整理すれば、人間は重要な症例や判断の難しい症例に時間を集中できます。

電子診療録の自由記載から、人生の最終段階に関する話し合いの記録を抽出した研究では、自然言語処理で対象を絞った後に人間が確認する方法により、従来の全件レビューと比べて作業時間を大きく削減しながら、92.6%の感度を維持できました。( ジャーナルネットワーク)

また、心不全患者の臨床試験参加条件を確認したランダム化試験では、AIを利用した群では、完了できた患者の99%以上について15日以内に適格性を判定できたのに対し、人による従来法では50日以内でした。( ジャーナルネットワーク)

目的は異なりますが、AIが診療録の事前確認を担うことで、人間のレビューを高速化できる可能性を示しています。

2.判断材料を標準化できる

人による診療録レビューでは、確認者によって注目する情報や評価基準が異なることがあります。

AIに同じ評価項目、同じ定義、同じ出力形式を使用させれば、少なくとも情報抽出の方法は標準化できます。

敗血症患者約10万人の入院記録から症状を抽出した研究では、AIは医師による診療録レビューを基準として、99.3%の正確度、99.6%の特異度を示し、医師間の一致度に近い性能を示しました。ただし感度は69.7%であり、見逃しが残ることにも注意が必要です。( ジャーナルネットワーク)

この結果は、AIが大量の診療録から特定情報を抽出することには適している一方、AIだけですべての症例を除外することは危険であると示しています。

3.レセプトでは分からない例外を拾える

レセプト上は同じ画像検査でも、実際には、

などが混在しています。

AIによって診療録からこれらの例外条件を抽出できれば、レセプトだけで行う評価より誤判定を減らせます。

複数疾患の症例判定に大規模言語モデルを用いた研究では、感度は78~98%、特異度は48~98%と、疾患、モデル、指示方法によって性能が大きく変わりました。( PubMed)

これは、診療録情報を使うことで判定を改善できる可能性と同時に、対象ごとの事前検証が不可欠であることを示しています。

4.医療機関への説明可能性が高まる

単に「画像検査率が高い」と通知されても、医療機関は納得しにくいでしょう。

一方、

という形で示せれば、改善すべき診療プロセスが明確になります。

AIレビューは、処罰のためだけではなく、医療機関が自ら診療を見直すための材料として使えます。

最大の課題は「AIが間違えること」だけではない

1.もっともらしい誤りを作る

生成AIは、診療録に存在しない情報を補ってしまうことがあります。

また、否定表現、過去の症状、家族歴、他院記録などを現在の患者所見と取り違える可能性があります。

臨床記録からの情報抽出を扱った研究でも、詳細な指示がなければ精度と一貫性が低下し、否定表現や文脈依存の用語の処理に問題が残ると指摘されています。( ジャーナルネットワーク)

そのため、AIの回答には必ず診療録上の引用箇所を付け、第三者が原文へ戻れるようにしなければなりません。

2.「記載なし」と「所見なし」を混同する

診療録に発熱の記載がないからといって、発熱がなかったとは限りません。

医師が診察して異常なしと判断したものの、記載しなかった可能性があります。

逆に、診療録に記載されている病名が、実際の臨床判断を正確に表しているとも限りません。

AIは、存在する文書を読むことはできますが、記録されなかった臨床情報を復元することはできません。

したがって、AIレビューによって評価できるのは、

診療の適切性そのもの

だけではなく、

診療録上、適切性を裏付ける情報が確認できるか

という側面を含みます。

診療そのものの問題と、記録の問題を分けて評価する必要があります。

3.AIの結論に人間が引きずられる

人が最終判断する仕組みにしても、それだけで安全とは限りません。

AIが先に「低価値医療の可能性が高い」と表示すると、人間の確認者がその結論に引きずられる、いわゆる自動化バイアスが生じます。

対策として、AIには最終評価を表示させず、まず事実の抽出だけを行わせる方法が考えられます。

人間のレビュー担当者は、

  1. 診療録の重要部分を確認する

  2. 自ら暫定評価を行う

  3. その後にAIが抽出した情報を見る

という順序にした方が、AIへの過度な依存を抑えやすくなります。

4.医療機関や患者集団によって性能が変わる

診療録の書き方は、医療機関、診療科、電子カルテ、医師によって異なります。

略語、定型文、コピーされた記載、音声入力の誤変換などもあります。

ある病院で高い精度を示したAIが、別の地域や診療科でも同じ性能を示すとは限りません。

医療AIの実装指針であるFUTURE-AIでは、公平性、汎用性、追跡可能性、使いやすさ、頑健性、説明可能性という六つの原則を、開発から導入後の監視まで一貫して評価することが提案されています。( BMJ)

導入前には、施設別、診療科別、患者属性別に性能を検証する必要があります。

5.患者情報の保護が必要になる

診療録には、極めて機微性の高い個人情報が含まれます。

一般向けの生成AIサービスに、そのまま診療録を入力する運用は避けなければなりません。

AIレビューを行う場合には、少なくとも、

が必要です。

厚生労働省は2026年6月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」を公表し、医療機関に遵守を求めています。改定作業では、生成AIやクラウドサービスによる医療情報の取扱い拡大も背景として挙げられました。( 厚生労働省)

なお、同ガイドラインのQ&Aは2026年7月時点で改版中であり、AI利用に関する具体的運用は、今後も更新を確認する必要があります。( 厚生労働省)

AIレビューを制度化するための七つの条件

第三者によるAI診療録レビューを実際の政策として導入するなら、次の条件が必要です。

1.対象となる低価値医療を限定する

最初からすべての検査や処方を対象にしてはいけません。

エビデンスが比較的確実で、例外条件が定義でき、診療録から判断材料を抽出しやすい項目から始めます。

2.AIの役割を情報抽出と優先順位づけに限定する

AIに、査定、行政処分、保険医指定取消しなどの最終判断をさせてはいけません。

AIは、症例を、

というように整理し、人間のレビュー対象を絞ります。

3.出力には必ず原文の根拠を付ける

AIが示した情報について、どの診療録のどの部分に根拠があるのかを確認できるようにします。

根拠を追跡できない回答は、評価に使用しません。

4.AIが陰性とした症例も無作為に確認する

AIが「問題なし」と判断した症例を一切確認しなければ、見逃し率を把握できません。

陽性例だけでなく、陰性例からも一定割合を無作為抽出し、人間が確認します。

5.医療機関に異議申立ての機会を保障する

診療録だけでは把握できない事情や、地域特有の医療提供体制があるかもしれません。

医療機関が追加資料を提出し、評価の再検討を求められる仕組みが必要です。

6.AIの性能を継続的に監視する

AIモデルや電子カルテの仕様が変われば、精度も変化します。

感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率に加えて、患者属性別の誤判定率を継続的に測定します。

医療AIは、導入前の精度だけでなく、実際の運用中の人間との相互作用、安全性、業務への影響を評価する必要があります。DECIDE-AIは、初期の臨床導入において実際の性能、安全性、ヒューマンファクターを評価することの重要性を示しています。( Nature)

7.第三者機関の独立性を確保する

AIを運用する組織が、医療費削減額によって報酬を得る仕組みでは、過剰な低価値判定を行う誘因が生まれます。

レビュー機関の評価指標は、査定額ではなく、

で設計すべきです。

現実的な実証事業の形

日本で最初に実施するなら、全国一斉導入ではなく、限定された実証事業が適切です。

例えば、一つの低価値医療指標について、複数地域の医療機関を対象に、次の三つの方法を比較します。

比較する項目は、

です。

AIの正確度だけを検証するのではなく、 AIを組み込んだ審査制度全体が、従来より安全で、公平で、効率的か を評価しなければなりません。

AIは第三者の代わりではなく、第三者を成立させる基盤になる

低価値医療対策に第三者による診療録レビューを導入することには、臨床的な妥当性があります。

しかし、人間だけで全国の診療録を確認することは現実的ではありません。

AIは、この困難を解決する可能性があります。

大量の診療録から必要な所見を探し、例外条件を整理し、判断が必要な症例を人間に提示する。

これにより、少数の専門家でも、より多くの症例を一定の基準で確認できるようになります。

ただし、AIを「医療の適切性を判定する第三者」として扱ってはいけません。

AIは第三者レビューを置き換えるのではなく、第三者レビューを現実的な規模で成立させるための基盤である。

この位置づけが重要です。

レセプトで対象を見つける。

AIが診療録から判断材料を整理する。

人間の専門家が臨床的妥当性を判断する。

医療機関には説明と異議申立ての機会を保障する。

そして、査定額ではなく、診療の改善と患者安全を評価する。

この仕組みであれば、AIは低価値医療を機械的に切り捨てる道具ではなく、必要な医療を守りながら、不要な医療を丁寧に見直すための道具になり得ます。

参考文献

  1. Lee RY, Brumback LC, Lober WB, et al. Assessment of Natural Language Processing of Electronic Health Records to Measure Goals-of-Care Discussions as a Clinical Trial Outcome. JAMA Network Open. 2023;6(3):e231204. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.1204.

  2. Pak TR, Sánchez SM, McKenna CS, Rhee C, Klompas M. Syndromic Analysis of Sepsis Cohorts Using Large Language Models. JAMA Network Open. 2025;8(9):e2532188.

  3. Schuemie MJ, et al. Standardized Patient Profile Review Using Large Language Models for Case Adjudication in Observational Research. NPJ Digital Medicine. 2025;8:32. doi:10.1038/s41746-025-01433-4.

  4. Unlu O, Varugheese M, Shin J, et al. Manual vs AI-Assisted Prescreening for Trial Eligibility Using Large Language Models—A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025;333(12):1084-1087. doi:10.1001/jama.2024.28047.

  5. Burford KG, et al. Accuracy, Consistency, and Hallucination of Large Language Models When Analyzing Unstructured Clinical Notes in Electronic Medical Records. JAMA Network Open. 2024;7(8):e2425953.

  6. Lekadir K, Feragen A, Fofanah AJ, et al. FUTURE-AI: International Consensus Guideline for Trustworthy and Deployable Artificial Intelligence in Healthcare. BMJ. 2025;388:e081554. doi:10.1136/bmj-2024-081554.

  7. Vasey B, Nagendran M, Campbell B, et al. Reporting Guideline for the Early-Stage Clinical Evaluation of Decision Support Systems Driven by Artificial Intelligence: DECIDE-AI. Nature Medicine. 2022;28:924-933. doi:10.1038/s41591-022-01772-9.

  8. World Health Organization. Ethics and Governance of Artificial Intelligence for Health: Guidance on Large Multi-Modal Models. WHO; 2025.

  9. 厚生労働省.医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版.2026年6月.

  10. 厚生労働省.第25回健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ議事録.2025年7月24日.


※この記事はAI共創型コンテンツです。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[データに基づく標的型デ・インプリメンテーションを日本の医療政策へ]]>https://paragraph.com/@smaller/targeted-de-implementation-japan jibjRKVwrkdZtSVkd3k7Wed, 15 Jul 2026 04:15:44 GMT低価値医療の問題を議論すると、しばしば単純な解決策が提示されます。

「レセプトを分析すれば、不要な検査や処方が多い医療機関は分かる。そこを集中的に査定すればよい」

この主張には、正しい部分があります。

レセプトデータを使えば、特定の検査、処方、画像診断などを著しく多く行っている医師や医療機関を抽出できます。日本のプライマリ・ケア領域の研究でも、測定された低価値医療の45.2%を上位10%の医師が、65.5%を上位20%の医師が提供していました。

低価値医療が一部の医師に集中しているのであれば、全医療機関への一律の啓発より、外れ値となる施設への重点的な介入の方が合理的です。

しかし、そこから「集中的な査定によって容易に淘汰できる」と結論づけるのは早計です。

必要なのは、一律査定ではありません。

データによって対象を絞り込み、臨床的妥当性を確認し、原因に応じて診療行動と制度を変える、標的型デ・インプリメンテーションです。

低価値医療と不適切請求は同じではない

現在のレセプト審査が主に確認するのは、診療行為が保険診療の算定要件や通知に適合しているかどうかです。

一方、低価値医療とは、保険上は算定できても、患者にもたらす利益が小さい、あるいは害や負担が利益を上回る医療を含みます。

したがって、保険適応があり、算定要件も満たしている医療を、審査側が「価値が低い」と判断しただけで査定することには限界があります。

査定の対象にするためには、少なくとも、

を事前に明文化しなければなりません。

低価値医療対策は、審査技術の問題である前に、 給付範囲と診療の質をどう定義するかという政策判断 なのです。

レセプトは外れ値を探すには強いが、適切性の判定には弱い

レセプトデータは、標準化、網羅性、継続性という点で優れています。

医療機関ごとの診療パターンを低コストで比較し、地域差、施設差、医師差を可視化できます。

しかし、レセプトには、症状の重症度、身体所見、患者の希望、治療歴、医師の診断推論などが十分に記録されていません。

そのため、レセプトだけで個々の診療を低価値と断定すると、適切な医療まで誤って対象にする危険があります。

政策的には、レセプトを次のように位置づけるべきです。

レセプトは、査定対象を自動的に決定する装置ではなく、追加確認と改善支援の優先順位を決めるスクリーニング装置である。

この原則を明確にしなければ、必要な医療の萎縮、病名の付け替え、複雑な患者の回避といった副作用が起こります。

標的は医療機関だけではない

標的型デ・インプリメンテーションというと、外れ値となった医療機関を標的にする政策だと理解されがちです。

しかし、本来、標的にすべきものは三つあります。

第一は、 診療行為 です。

何を減らすのかを、検査全般ではなく、患者と臨床状況の組み合わせとして定義します。

第二は、 改善余地の大きい医師、医療機関、地域 です。

単純な件数ではなく、患者背景、診療科、施設規模を調整し、複数期間にわたり持続的に高い施設を抽出します。

第三は、 低価値医療を生み出している原因 です。

この第三の標的が最も重要です。

なぜ低価値医療が行われるのか

低価値医療は、医師の無知や倫理の問題だけでは説明できません。

原因としては、少なくとも次のようなものがあります。

知識不足が原因なら教育が必要です。

患者の期待が原因なら、患者向け説明資料や共有意思決定支援が必要です。

見逃しへの不安が原因なら、再診基準、フォローアップ、悪化時対応という安全網が必要です。

診療報酬が原因なら、教育ではなく報酬設計を変える必要があります。

すべての原因に対して査定だけを用いる政策は、精度が低すぎます。

一律の啓発から、外れ値への個別介入へ

現在の低価値医療対策は、ガイドライン、Choosing Wisely、研修、啓発資料など、すべての医師を対象とする方法に偏りがちです。

しかし、すでに診療が適正化されている医師に追加研修を行っても、削減余地はほとんどありません。

今後は、レセプトデータを用いて実施率を測定し、同規模・同機能の医療機関と比較した結果を、非公開で本人に返す仕組みが必要です。

有効なフィードバックには、

を含めるべきです。

ランキングを公開して羞恥心に訴えるのではなく、診療を変えるための情報を提供する必要があります。

第三者による診療録レビューを組み込む

レセプト上の外れ値を見つけた後は、対象施設の診療録から一定数の症例を抽出して確認します。

ここでは、

を評価します。

このレビューは、査定機関だけで完結させるべきではありません。

当該診療領域の専門家、地域医療に詳しい医師、疫学・医療経済の専門家などを含め、臨床的妥当性を検討する必要があります。

レセプト分析と診療録レビューを二段階にすることで、誤判定を減らし、介入の正当性を高められます。

政策としての段階的介入

標的型デ・インプリメンテーションは、次の段階で運用するのが妥当です。

第1段階:非公開のデータ提供

外れ値となった医療機関に、自施設の調整後実施率と比較データを示します。

第2段階:改善支援

代替診療、患者説明資料、電子カルテの設定変更、再診プロトコルなどを提供します。

第3段階:再評価

一定期間後に実施率を再測定し、改善の有無を確認します。

第4段階:診療録レビューと改善計画

改善がみられない場合は、標本症例を確認し、施設に具体的な改善計画を求めます。

第5段階:重点審査・算定要件の見直し

エビデンスと判定基準が十分に確立しており、正当な例外も少ない診療については、重点審査や算定要件の限定を検討します。

第6段階:監査・行政対応

明白な不適切請求、虚偽病名、意図的なルール回避が反復される場合には、監査や行政処分を行います。

この段階構造によって、善意の臨床判断と、組織的な過剰診療を区別できます。

成果指標は削減率だけでは不十分

政策が成功したかどうかを、検査や処方の削減件数だけで評価してはいけません。

同時に確認すべきなのは、

です。

低価値医療を減らす政策が、必要な医療まで減らすのであれば、それは医療の質改善ではなく、単なる給付抑制です。

デ・インプリメンテーションには、低価値医療の削減指標だけでなく、過少医療を検出する安全指標が不可欠です。

日本に必要なのは低価値医療を減らす制度設計

日本には、全国規模のレセプトデータ、審査支払機関、保険者機能、診療報酬制度があります。

低価値医療を測定し、介入するための基盤はすでに存在しています。

不足しているのは、次の仕組みです。

低価値医療を「悪い医師を探す問題」として扱えば、現場は防御的になります。

一方で、診療データを質改善に使い、検査や処方を行わない判断を支える制度をつくれば、医療者の行動は変わります。

「しない医療」を支える政策へ

低価値医療を減らすうえで、医師個人に最も不足しているのは、検査や薬を追加する権限ではありません。

検査をしないこと、薬を出さないこと、中止することを、患者に説明し、制度的にも守られる環境です。

医師が、

「今回は検査を行わない方が、かえって患者さんの利益になります」

「この薬を続ける根拠は乏しいため、中止を検討します」

と説明できるためには、エビデンスだけでなく、再診体制、患者向け情報、診療報酬、法的支援が必要です。

標的型デ・インプリメンテーションは、単なる医療費削減策ではありません。

検査や処方をしないことを説明できる自由を、医療現場に取り戻す政策です。

査定は必要な場合があります。

しかし、査定を出発点にしてはいけません。

データで見つけ、臨床的に確かめ、原因を診断し、仕組みを変え、安全性を評価する。

その全体を政策として設計して初めて、低価値医療は持続的に減っていくのです。

参考文献

  1. Miyawaki A, et al. Primary Care Physician Characteristics and Low-Value Care Provision in Japan. JAMA Health Forum. 2025;6(6):e251430. doi:10.1001/jamahealthforum.2025.1430.

  2. Kien C, Daxenbichler J, Titscher V, et al. Effectiveness of de-implementation of low-value healthcare practices: an overview of systematic reviews. Implementation Science. 2024;19:56. doi:10.1186/s13012-024-01384-6.

  3. Grimshaw JM, Patey AM, Kirkham KR, et al. De-implementing wisely: developing the evidence base to reduce low-value care. BMJ Quality & Safety. 2020;29(5):409-417. doi:10.1136/bmjqs-2019-010060.

  4. Norton WE, Chambers DA. Unpacking the complexities of de-implementing inappropriate health interventions. Implementation Science. 2020;15:2. doi:10.1186/s13012-019-0960-9.

  5. Ivers N, et al. Audit and feedback: effects on professional practice. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2026;(6):CD000259.

  6. 厚生労働省.医療費適正化に関する施策についての基本的な方針.


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■ bycomet

医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[日本で優先して減らすべき低価値医療]]>https://paragraph.com/@smaller/low-value-care-japan R5pfCIao7VqpCtVRE0q3Tue, 14 Jul 2026 16:00:00 GMT

医療には、患者に大きな利益をもたらす診療がある一方で、利益がほとんどない、あるいは利益よりも害や負担が上回る診療もあります。このような医療は「低価値医療」と呼ばれます。

低価値医療は、単なる無駄遣いではありません。不要な検査の偽陽性から追加検査や治療が始まったり、効果の乏しい薬によって有害事象が生じたりする可能性があります。医療者の時間や設備も消費し、本当に必要な患者へ振り向けるべき資源が失われます。

日本のプライマリ・ケア医1019人、患者約254万人を対象とした研究では、10種類の低価値医療が、年間患者100人当たり17.2件提供されていました。また、日本の約192万人を対象に52種類の低価値医療を調べた別の研究では、対象者の3分の1以上が1年間に少なくとも1件を受け、その費用は総医療費の0.7~1.0%と推計されています。( JAMA Network)

注目すべきなのは、低価値医療の大部分が、極端に高額な医療ではなく、比較的安価な医療が大量に繰り返されることで生じていた点です。一件当たりの費用だけではなく、頻度を含めて考える必要があります。

では、日本で低価値医療を減らすとすれば、どの診療から優先すべきでしょうか。

低価値医療の優先順位をどう決めるか

本稿では、候補となる診療を次の五つの要素で評価します。

頻度 × 患者への害 × 費用 × 測定可能性 × 改善可能性

それぞれを相対的に1~5点で評価し、掛け合わせた値を暫定的な優先度指数とします。

ただし、これは科学的な妥当性が検証された評価尺度ではありません。専門家や患者代表による議論を始めるための、仮の優先順位です。

また、点数を付ける前に、次の「エビデンス確実性ゲート」を通過させる必要があります。

単に費用が高いことや、医療機関によって実施率が異なることだけでは、低価値医療とは判断できません。

暫定的な優先順位

  1. 合併症のない急性気道感染症への抗菌薬: 1875点

  2. 非神経障害性腰痛へのプレガバリン: 1600点

  3. 赤旗所見のない急性腰痛への早期画像検査: 1600点

  4. 神経根症のない腰痛への注射療法: 1280点

  5. 低リスク手術前の定型的検査・負荷検査: 900点

  6. 急性気道感染症へのコデイン: 800点

  7. 赤旗所見のない頭痛への画像検査: 576点

  8. 短期間の反復骨密度検査: 480点

  9. 骨粗鬆症性椎体骨折への定型的な経皮的椎体形成術: 360点

  10. 警告症状のない若年者への消化管内視鏡: 216点

以下、それぞれを具体的に検討します。

1.合併症のない急性気道感染症への抗菌薬

最も優先度が高い候補は、感冒、非細菌性咽頭炎、百日咳を除く急性気管支炎などに対する抗菌薬です。

肺炎、細菌性副鼻腔炎、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、中耳炎、慢性呼吸器疾患の細菌性増悪など、抗菌薬が必要な病態は除外しなければなりません。

日本のプライマリ・ケア研究では、急性気道感染症患者の20.1%が少なくとも一度抗菌薬を処方されていました。測定された低価値医療の中でも、特に件数の多い診療です。( JAMA Network)

厚生労働省の2026年版「抗微生物薬適正使用の手引き」でも、基礎疾患や合併症のない急性気管支炎について、百日咳を除き抗菌薬を投与しないことが推奨されています。( 厚生労働省)

抗菌薬の不必要な使用は、下痢、アレルギー反応、Clostridioides difficile感染症などの患者個人への害に加え、薬剤耐性菌を選択するという社会全体への害をもたらします。

一方、適切な代替診療は明確です。肺炎などの除外、自然経過の説明、症状緩和、悪化時の再診基準を組み合わせることで、安全に減らしやすい低価値医療です。

2.非神経障害性腰痛へのプレガバリン

プレガバリンは神経障害性疼痛には使用されますが、神経障害性疼痛ではない通常の腰痛に対する有効性は支持されていません。

対象を定義する際には、糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、明確な神経根障害など、正当な適応を除外する必要があります。

NICEは、通常の腰痛に対してガバペンチノイドを使用しないよう推奨しています。また、坐骨神経痛患者を対象としたランダム化比較試験でも、プレガバリンは下肢痛やその他の転帰を改善せず、有害事象が多く認められました。( New England Journal of Medicine)

厚生労働省も2025年、神経障害性疼痛を除く腰痛へのプレガバリン処方を「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」に位置づけました。( 厚生労働省)

めまい、傾眠、浮腫、転倒などの有害事象があり、とくに高齢者では注意が必要です。薬剤名と適応病名を比較的明確に区別でき、運動、活動維持、患者教育などの代替策もあるため、改善可能性の高い候補です。

3.赤旗所見のない急性腰痛への早期画像検査

急性腰痛患者にMRIやCTを実施しても、それだけで低価値医療になるわけではありません。

外傷、悪性腫瘍、感染症、骨折、進行する神経障害、馬尾症候群などが疑われる場合には、早期画像検査が必要です。

問題となるのは、こうした赤旗所見がなく、画像結果が診療方針を変えないにもかかわらず行われる定型的な検査です。

NICEは、非専門医療の場では腰痛患者に画像検査を定型的に行わず、専門医療でも結果が治療方針を変える場合に限って検討するよう推奨しています。( NICE)

不要な画像検査には、費用だけでなく、偶発所見から追加検査が始まる、加齢性変化を病気として認識してしまう、不安が増える、侵襲的治療につながる、といった問題があります。

ただし、赤旗所見の有無は診察によって判断されます。したがって、単純に「腰痛に画像検査を行った」というだけで低価値とは評価できません。適応の定義には臨床情報が不可欠です。

4.神経根症のない腰痛への注射療法

神経根症や坐骨神経痛を伴わない通常の腰痛に対する、硬膜外注射や各種脊椎注射も候補になります。

日本のプライマリ・ケア研究では、神経根症を伴わない腰痛に対する注射療法は、腰痛患者100人当たり25.3件と高頻度でした。( JAMA Network)

NICEは通常の腰痛に脊椎注射を行わないよう推奨しています。2025年のBMJ臨床ガイドラインでも、慢性非がん性脊椎痛に対する多くの注射・介入手技は、偽処置と比べて重要な利益を示さないと評価されています。( NICE)

一方で、急性かつ重度の坐骨神経痛に対する硬膜外注射、特定の局所筋痛に対する注射、診断的ブロックなどは区別しなければなりません。

「腰痛への注射」を一括して否定するのではなく、対象病態、手技、治療目的を限定して評価する必要があります。

5.低リスク手術前の定型的検査・負荷検査

低リスク手術を受ける患者に、診療方針を変えないまま行われる定型的な検査も、重要な候補です。

具体的には、臨床的な必要性がないにもかかわらず一律に行われる血液検査、胸部X線、心電図、心エコー、負荷心電図、心筋シンチなどが該当します。

2024年のACC/AHA周術期ガイドラインは、心血管イベントの危険が低い患者、良好な運動耐容能を持つ患者、低リスク手術を受ける患者には、定型的な負荷検査を行わないよう推奨しています。( American College of Cardiology)

白内障手術については、2万件を超える手術を含むCochraneレビューで、定型的な術前検査を行っても周術期の医学的有害事象は減少しませんでした。( コクラン)

術前検査そのものが悪いのではなく、患者の病歴、予定手術、麻酔方法、検査結果が診療方針に与える影響を考慮せず、一律に行うことが問題です。

6.急性気道感染症へのコデイン

急性の咳に対するコデインも、比較的測定しやすく、改善可能性の高い候補です。

日本のプライマリ・ケア研究では、急性気道感染症患者の8.4%にコデインが処方されていました。( JAMA Network)

NICEのエビデンスレビューでは、急性咳嗽に対するコデインは、咳症状を改善する利益を示さないと結論づけられています。( NICE)

利益が認められない状況では、傾眠、便秘、悪心、転倒、呼吸抑制といったオピオイドの有害作用が純粋な不利益になります。

ただし、がん疼痛、慢性疼痛など、別の適応で使用されている患者は除外する必要があります。

7.赤旗所見のない頭痛への画像検査

頭痛に対する画像検査も、臨床状況を限定すれば低価値医療の候補になります。

電撃性発症、神経脱落所見、発熱、がん、免疫不全、妊娠・産褥期の新規頭痛、50歳以降の新規発症、頭蓋内圧亢進を疑う所見などがあれば、画像検査が必要になることがあります。

一方、こうした赤旗所見がなく、典型的な一次性頭痛が考えられる場合には、定型的な画像検査の診断価値は低くなります。

ACR Appropriateness Criteriaでは、突然発症などの赤旗所見がない頭痛に対する初回画像検査の多くが「通常は不適切」と評価されています。( ACR Search)

ただし、頭痛の発症様式や神経学的所見は診察によって評価されます。この項目も、画像検査の実施だけで一律に低価値と判断することはできません。

8.短期間の反復骨密度検査

短期間に繰り返される骨密度検査も候補になります。

日本のプライマリ・ケア研究では、骨密度検査を受けた患者の12.4%に短期間の反復検査が確認されました。( JAMA Network)

USPSTFは、スクリーニングとして骨密度検査を4~8年間隔で繰り返しても、骨折予測精度の上乗せが認められないとしています。測定誤差もあるため、短期間の変化を過度に解釈することには限界があります。( アメリカ合衆国予防サービス作業部会)

ただし、これはスクリーニングに関するエビデンスです。治療中の患者、急速な骨量減少が予想される病態、測定上の問題があった場合などには、より短い間隔で検査することがあります。

したがって、まずは「同一年度内の3回目以降」など、明らかに頻回な検査から評価するのが妥当です。

9.骨粗鬆症性椎体骨折への定型的な経皮的椎体形成術

経皮的椎体形成術は、骨粗鬆症による椎体骨折に骨セメントを注入する治療です。

一件当たりの費用が高く、侵襲性もあるため、件数が少なくても優先的に検討すべき候補になり得ます。

Cochraneレビューでは、骨粗鬆症性椎体骨折への椎体形成術は、偽処置と比べて疼痛や機能に臨床的に重要な利益をもたらさないという結果が示されています。( コクラン)

一方で、極めて急性期の骨折、MRI所見と疼痛部位が一致する患者、保存的治療で改善しない重症例など、選択された患者では利益がある可能性を主張する研究や専門家もいます。

したがって、「椎体形成術はすべて低価値」とするのではなく、骨折時期、画像所見、疼痛の程度、保存治療への反応を含めた適応の精緻化が必要です。

10.警告症状のない若年者への消化管内視鏡

若年者の単純なディスペプシアや便秘に対する内視鏡検査も、候補になり得ます。

海外の研究では、60歳未満で体重減少、出血、貧血、嚥下障害、持続性嘔吐などの警告症状がないディスペプシア患者では、上部消化管内視鏡による重要病変の検出率は非常に低いとされています。( PubMed)

海外のガイドラインでは、低リスク患者には、まずHelicobacter pyloriの非侵襲的検査や薬物治療を行い、内視鏡を選択的に実施する方針が採られています。( ACG CDN)

ただし、日本は欧米より胃がんやH. pylori感染の疫学が異なります。また、検診として行われる内視鏡と、症状の精査として行われる内視鏡は区別しなければなりません。

そのため、この項目を日本で優先的な削減対象とするには、日本人に適した年齢基準、警告症状、家族歴、既往歴、再検査間隔を先に定める必要があります。

11.急性気道感染症への去痰薬

日本のプライマリ・ケア研究では、急性気道感染症に対する去痰薬は、測定対象となった低価値医療の中でも特に高頻度でした。( JAMA Network)

そのため、「頻度」と「改善可能性」だけを見れば、非常に高い優先度になります。

一方、カルボシステインなどの去痰薬については、急性咳嗽に対する効果のエビデンスが限定的であるものの、利益が完全に否定されているとは言い切れません。また、抗菌薬やオピオイドと比べれば、一般に患者への重大な害は小さいと考えられます。

現段階では、一律に低価値と定義するよりも、

を検証する研究が先です。

12.長期の外用NSAIDs・サリチル酸製剤

外用NSAIDsは大量に処方されるため、総費用の面では高い得点になる可能性があります。

しかし、外用NSAIDsは変形性膝関節症などに対して有効性が認められ、ACR/Arthritis Foundationガイドラインでも強く推奨されています。( アメリカリウマチ学会)

したがって、「外用NSAIDsの処方」そのものを低価値医療とすることはできません。

検討対象になり得るのは、

といった、より狭く定義された状況です。

使用実態や残薬を確認できなければ、適切な疼痛管理まで減らしてしまう危険があります。

13.安定冠動脈疾患へのPCI

安定冠動脈疾患に対するPCIは高額であり、低価値医療の議論でしばしば取り上げられます。

COURAGE試験では、安定冠動脈疾患患者において、至適薬物療法へPCIを追加しても、死亡や心筋梗塞などの主要心血管イベントは減少しませんでした。ISCHEMIA試験でも、安定した虚血性心疾患患者に対する初期侵襲的戦略は、保存的戦略と比べて主要な虚血性イベントや死亡を明確には減らしませんでした。( New England Journal of Medicine)

しかし、ここから「安定冠動脈疾患へのPCIは低価値」と一括して結論づけることはできません。

PCIには、適切に選択された患者の狭心症症状を改善する効果があります。ORBITA-2試験では、虚血を生じる冠動脈狭窄を持つ安定狭心症患者において、PCIは偽処置と比べて狭心症頻度や運動耐容能を改善しました。( American College of Cardiology)

左主幹部病変、特定の高リスク解剖、薬物治療でも持続する症状なども区別する必要があります。

つまり、問題となるのはPCIそのものではなく、

といった状況です。

必要な臨床情報が多いため、単純な診療データだけで低価値と判定することには適しません。

低価値医療は診療行為の名前だけでは決まらない

今回挙げた13項目には、共通する注意点があります。

「抗菌薬」「MRI」「内視鏡」「PCI」といった診療行為そのものが低価値なのではありません。

低価値医療は、

どの患者に、どの状況で、どの目的で、その診療を行ったか

によって決まります。

同じ画像検査でも、重大疾患を疑う患者には不可欠であり、結果が診療方針を変えない低リスク患者には低価値となります。同じ薬剤でも、適応疾患には有効であり、適応外の症状に惰性的に使えば低価値になります。

したがって、優先順位を決める際には、診療行為の名称ではなく、患者条件、除外条件、実施時期、頻度、目的を含めて定義しなければなりません。

減らしやすさと患者への害を重視する

低価値医療対策では、高額な医療ばかりが注目されがちです。

しかし、日本の研究では、一件当たりの費用が比較的小さい診療が、件数と総費用の大部分を占めていました。

最初に取り組むべきなのは、必ずしも一件当たりの価格が最も高い医療ではありません。

という条件を満たす診療です。

この観点からは、急性気道感染症への抗菌薬、非神経障害性腰痛へのプレガバリン、赤旗所見のない腰痛への早期画像検査、神経根症のない腰痛への注射療法が、最初の有力候補になります。

低価値医療を減らすことは、医療を減らすことではない

低価値医療の削減は、単に検査や処方の件数を減らすことではありません。

有効性の乏しい診療を減らし、その代わりに、

を提供することです。

デ・インプリメンテーション研究では、薬剤使用、とくに抗菌薬やオピオイドの削減には一定の成果が認められています。一方、検査や画像診断では効果が一貫せず、教育だけでなく、診療フローや情報システムの変更、患者とのコミュニケーション、関係者間の連携を組み合わせることが重要とされています。( スプリンガーリンク)

低価値医療を減らすために必要なのは、「何もしないこと」ではありません。

検査や処方を行わない理由を説明し、その代わりに何を行うのかを示すことです。

医療者が「検査をしないこと」「処方しないこと」を患者に説明でき、その判断を患者と医療制度が支えられる環境をつくること。それが、低価値医療を減らし、必要な医療を守るための出発点になります。

参考文献

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  3. Kien C, Daxenbichler J, Titscher V, et al. Effectiveness of de-implementation of low-value healthcare practices: an overview of systematic reviews. Implementation Science. 2024;19:56. doi:10.1186/s13012-024-01384-6. ( スプリンガーリンク)

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※この記事はAI共創型コンテンツです。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[医療を持続可能にするための10の方法]]>https://paragraph.com/@smaller/sustainable-healthcare-10 d90RYLmbvPO3l3C3sUjTFri, 10 Jul 2026 22:00:00 GMT

日本では今後、高齢化によって医療や介護の需要が増える一方、それを支える働き手は減っていきます。

とくにプライマリ・ケアや訪問診療では、85歳以上の高齢者、認知症のある人、独居の人、複数の慢性疾患を抱える人が増えることが予想されます。

患者が増えるたびに医師や看護師を増やし、診療所を大きくし、設備を追加する。これまでのような拡大型の方法だけでは、いずれ限界が訪れます。

では、医療の質を保ちながら、限られた人員と財源で医療を持続させるには、どうすればよいのでしょうか。

必要なのは、医療者の賃金を下げたり、診察時間を機械的に短くしたりすることではありません。

同じ、あるいはより良い健康アウトカムを、より少ない移動、検査、処方、待機、事務作業で実現することです。

医療を安売りするのではなく、過剰な部分を減らし、小さくても質の高い医療へ組み替えていく。そのために、プライマリ・ケアと訪問診療の現場で始められる10の方法を考えます。

1.患者1人・1年単位で医療を測る

多くの診療所では、月ごとの売上やレセプト件数を確認しています。しかし、患者1人にどれだけの医師時間、職員時間、検査、薬剤、移動が投入されているかは、十分に把握されていません。

最初に行うべきことは、医療の提供に使われている資源を測ることです。

訪問診療であれば、次のような項目を記録します。

最初から完璧なシステムを作る必要はありません。まず50人、あるいは100人の患者について測るだけでも、改善すべき場所が見えてきます。

医療を小さくするためには、まず、医療がどこで大きくなっているのかを知る必要があります。

2.主治医個人ではなく、小さなチームで支える

今後、すべての患者を1人の医師が継続して診続けることは難しくなります。

一方で、担当医が頻繁に変わり、診療方針が共有されていなければ、検査や処方が重複し、患者や家族の不安も増えます。

必要なのは、「1人の主治医」から「継続性のある小さなチーム」への転換です。

患者ごとに担当医、看護師、事務・調整担当者をある程度固定し、次の情報を共有します。

重要なのは、毎回必ず同じ医師が診察することだけではありません。

誰が対応しても、同じ情報と方針が引き継がれることです。

3.「しない医療」を標準化する

医療資源を有効に使ううえで、最も即効性があるのは、不要な医療を減らすことです。

ただし、単に「検査をしない」「薬を出さない」と決めるだけでは、患者の不安や医療者のリスクが増えてしまいます。

必要なのは、「しない医療」を診療所全体で標準化することです。

たとえば、次のような場面が考えられます。

ここでは、検査や処方を控える基準だけでなく、患者への説明、再診の目安、注意すべき症状、経過観察の方法までをセットにします。

必要なのは、医師が「検査をしないことを説明できる自由」と「処方しないことを説明できる自由」を取り戻すことです。

「しないこと」を説明できる医療を取り戻す

Small Medicine Jul 7, 2026

検査をしないことを説明する。 処方しないことを説明する。 紹介しないことを説明する。 これは、実はとても高度な診療行為です。

0 collected Collect

4.医師にしかできない仕事へ時間を戻す

医師不足への対策として、医師を増やすことだけを考えていては間に合いません。

まず、医師が行っている業務を分解する必要があります。

診察前の問診、服薬確認、検査結果の整理、書類の基礎情報入力、診療録の下書き、定型的な療養説明などは、必ずしもすべてを医師が行う必要はありません。

看護師、薬剤師、医療事務、診療補助者、デジタルツールを組み合わせることで、医師は次の業務に集中できます。

医師の仕事を減らすことは、医療の質を下げることではありません。

医師にしかできない仕事へ、医師の時間を戻すことです。

5.オンライン診療より、遠隔フォローを増やす

デジタル化というと、すべての診察をオンライン診療へ置き換えることが想像されがちです。

しかし、実際に重要なのは、診療そのものをオンライン化することより、診療と診療の間を遠隔で支えることです。

たとえば、次のような方法があります。

安定している患者は遠隔で確認し、対面診療が必要な患者へ医療資源を集中させます。

オンライン診療を対面診療の安い代用品と考えるのではなく、必要な人へ対面診療を届けるための補助手段として使います。

6.訪問診療を地域密度型にする

訪問診療で最も大きな非効率の一つは、移動です。

医師が車に乗っている間は、診察も説明もできません。訪問範囲が広がるほど、患者数が増えても、診療に使える時間の割合が下がることがあります。

そのため、訪問診療は広域型から地域密度型へ変える必要があります。

目標は、単純に訪問患者数を増やすことではありません。

移動を減らし、診療、説明、対話に使える時間を増やすことです。

7.すべての患者を同じ頻度で診ない

慢性疾患が安定している患者と、急変リスクの高い患者を、同じ頻度、同じ方法で診療する必要はありません。

患者をリスク別に分類し、診療の強度を変えます。

低リスク患者には、定期訪問と遠隔フォローを組み合わせます。

中リスク患者には、看護師による中間確認を加えます。

高リスク患者には、短い診療間隔、緊急時対応計画、レスキュー薬、家族教育を準備します。

終末期の患者には、ACP、夜間の連絡方法、救急搬送を行う条件、自宅で対応できる範囲を事前に共有します。

訪問診療を導入するだけでは、入院や救急搬送が自動的に減るわけではありません。

誰に、どの程度の医療を届けるのかという設計が必要です。

8.夜間休日対応を地域で共同化する

各診療所が個別に24時間対応を行うと、医師、看護師、電話回線、マニュアル、当番体制が重複します。

この仕組みは、小規模な診療所ほど大きな負担になります。

今後は、地域の複数医療機関が協力し、次の機能を共同化することが必要です。

すべての機能を自前で保有することが、必ずしも質の高い医療ではありません。

共同で持った方が持続しやすい機能は、地域全体で共有すべきです。

9.処方を定期的に小さくする

高齢者の診療では、薬剤が徐々に追加され、いつの間にか10剤、15剤となっていることがあります。

複数の医療機関から似た薬が処方されていることも珍しくありません。

処方薬が増えるほど、薬剤費だけでなく、転倒、せん妄、腎機能障害、食欲低下などの有害事象も増えます。

診療所では、3か月から6か月ごとに減薬レビューを行います。

とくに確認すべきなのは、次のような薬です。

薬剤師と協働し、減薬候補の抽出、医師による確認、患者への説明、減薬後のフォローまでを定型化します。

処方を増やすことだけでなく、処方を減らすことも医療です。

10.設備ではなく「診療OS」を作る

これからの診療所に必要なのは、必ずしも大きな建物や高価な設備ではありません。

必要なのは、小さな拠点でも、安全に質の高い医療を提供できる共通の運営システムです。

これを「診療OS」と呼ぶことができます。

診療OSには、次のようなものが含まれます。

画像検査、専門検査、夜間対応、電話受付、請求事務などは、必要に応じて外部や地域で共有します。

すべてを所有する診療所ではなく、必要な機能へ適切に接続できる診療所を目指します。

まずは医師の時間を測ることから

ここまで10の方法を挙げましたが、最初からすべてを始める必要はありません。

最初の3か月で行うことは、次の5つで十分です。

  1. 患者100人について、診療時間、移動時間、検査、薬剤、入院を測る

  2. 頻度の高い5疾患について「しない医療」の基準を作る

  3. 医師の業務を棚卸しし、3つの業務を他職種へ移す

  4. 訪問患者の住所を地図化し、訪問ルートを見直す

  5. 急変リスクの高い患者に、緊急時対応計画を作る

最初に、新しいシステムや高価な機器を購入する必要はありません。

まず知るべきなのは、医師や職員の時間が何に使われ、どこで失われているかです。

医療を持続可能にするために、診療を粗末にする必要はありません。

不要な部分を減らし、本当に必要な診療、説明、対話に時間を戻す。

大きな医療を維持するのではなく、小さくても質の高い医療を、地域の中に数多くつくる。

それが、将来の医療需要の増大に備えて、今から始められるSmall Medicineの実践です。

Simply smaller.


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■ bycomet

医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[2040年に向けて、クリニックは何を担うべきか]]>https://paragraph.com/@smaller/clinic-2040 yTfi1b3Cjq5e8dA5YWeVFri, 10 Jul 2026 01:08:25 GMT厚生労働省の「地域医療構想策定ガイドライン」を読むと、これからの医療提供体制が大きく変わっていくことがよく分かります。

結論から言うと、クリニックの将来像は「外来患者を待つ場所」から、 「高齢者救急・在宅医療・施設医療・退院支援をつなぐ地域運用拠点」 へ移ると考えるのがよいです。

地域医療構想ガイドラインでは、2040年に向けて、 高齢者救急と在宅医療の需要増加、急性期医療需要の相対的低下、生産年齢人口減少による医療人材不足 が大きな前提になっています。さらに、外来・在宅・介護連携・人材確保まで地域医療構想の対象に含める方向が明示されています。

1. クリニックに起こる将来変化

| 領域 | 将来予測 | クリニックへの影響 | | 外来 | 通常外来需要は地域により減少。ただし高齢者の複合疾患、フレイル、服薬、栄養、口腔、療養支援は増える | 単純な「外来数」より、複合問題を整理する総合外来の価値が上がる | | 在宅医療 | 需要は増えるが、すべてを訪問診療だけで受け止める設計では持続困難 | 訪問件数拡大より、ICT・看護・施設連携を組み合わせた効率化が必要 | | 高齢者救急 | 誤嚥性肺炎、心不全、脱水、転倒、感染症などの救急・準救急が増える | 早期介入、ACP、救急搬送回避、退院後フォローが重要になる | | 病院との関係 | 急性期機能は集約化され、病院は早期退院・下り搬送・後方連携を強める | クリニックは「退院後の受け皿」として重要になる | | 介護施設 | 協力医療機関の役割、急変時相談、平時の情報共有が重視される | 施設医療・施設連携は大きな成長領域になる | | 人材 | 医師・看護師・事務・介護人材の確保が難しくなる | 医師依存型モデルは限界。チーム化・標準化・DXが必須 |

特に外来医療については、休日・夜間を含めた持続可能な提供体制、患者アクセス、効率的な外来提供が協議事項とされています。在宅医療では、24時間対応、バックベッド、訪問看護・薬局・歯科・介護との連携、オンライン診療や遠隔モニタリングの活用が明記されています。

2. クリニックの基本戦略

今後の中心戦略は、次の一文に集約できます。

「高齢者の急変を早く見つけ、病院に行くべき人は速やかにつなぎ、行かなくてよい人は地域で支え、退院した人をすぐ生活に戻す」

この機能を持つクリニックは、地域医療構想の中で価値が高まります。逆に、単純な一般外来、単純な訪問診療件数、属人的な24時間対応だけに依存すると、将来はかなり厳しくなります。

3. 優先すべき対策

① 在宅・施設・退院支援を中核事業にする

在宅医療を「訪問診療の件数拡大」と捉えるのではなく、 在宅患者・施設入所者・退院直後患者を面で支える仕組み として設計します。

具体的には、退院後48〜72時間以内の初回評価、服薬整理、栄養・口腔・リハビリ・訪問看護との接続、ACP確認、緊急時連絡ルールの整備をパッケージ化します。

② 高齢者急変の予防・早期介入システムを作る

高リスク患者をリスト化します。

対象は、心不全、COPD、CKD、認知症、独居、老老介護、誤嚥リスク、転倒リスク、脱水・熱中症リスク、がん終末期、頻回救急搬送歴のある患者です。

この患者群に対して、平時から「悪化時の連絡先」「往診基準」「救急搬送基準」「入院希望の有無」「看取り方針」を整理しておくことが、今後のクリニックの重要機能になります。

③ 24時間対応を属人化しない

24時間対応は強みですが、院長・少数医師に依存すると破綻します。

対策は、電話トリアージの標準化、看護師・事務による一次対応、緊急度分類、訪問看護との夜間連携、定型指示、オンライン診療、遠隔モニタリングの限定導入です。

重要なのは、 夜間往診を増やすことではなく、不要な夜間対応を減らし、必要な急変だけ確実に拾うこと です。

④ 介護施設との協力医療機関モデルを強化する

ガイドラインでは、高齢者施設入所者が状態悪化時に適切な医療を受けられる体制、協力医療機関の確保、平時からの情報共有、受診・搬送ルールの整理が重視されています。

クリニックとしては、施設ごとに以下を整備すると強いです。

| 項目 | 内容 | | 急変時ルール | 発熱、SpO2低下、意識障害、転倒、食事摂取低下時の連絡基準 | | 搬送基準 | 施設対応、往診、外来受診、救急搬送の分岐 | | ACP | 入院希望、救命処置、看取り場所 | | 定例会議 | 月1回の医療・看護・介護カンファレンス | | 情報共有 | MCS等での服薬、バイタル、ADL、摂食状況共有 |

⑤ 外来は「数」より「機能」で再設計する

外来需要は地域によって減少し得ますが、高齢者外来の複雑性は増します。今後伸ばすべき外来は、単科的な再診ではなく、以下のような外来です。

多疾患併存外来、ポリファーマシー外来、認知症・フレイル外来、心不全・CKDの重症化予防、退院後外来、在宅導入前外来、家族相談外来です。

かぜ・発熱外来も、単なる急性疾患対応ではなく、地域の入口機能として維持する価値があります。ただし、人的負荷と収益性を定期的に検証する必要があります。

⑥ 医師以外の担い手を増やす

将来の制約は患者数ではなく、 人材と運用能力 です。

医師を増やすだけではなく、看護師、医療事務、診療アシスタント、薬剤師、管理栄養士、歯科、リハビリ、ケアマネジャー、訪問看護、介護職とのチーム運用を前提にします。

クリニック内部では、医師がやるべき仕事を「診断・方針決定・重症判断・家族説明・ACP」に寄せ、記録、調整、定型フォロー、書類、情報収集はできるだけ分業化します。

4. 直近で作るべき管理指標

まずは、以下の指標を月次で見える化するとよいです。

| 分野 | 指標 | | 外来 | 75歳以上比率、初診数、再診数、発熱外来数、紹介数、逆紹介数 | | 在宅 | 在宅患者数、施設患者数、看取り数、緊急往診数、夜間電話数 | | 急変対応 | 救急搬送数、入院数、搬送回避数、退院後7日以内フォロー率 | | 連携 | 連携病院数、退院前カンファ件数、施設カンファ件数 | | 生産性 | 医師1人あたり患者数、移動時間、記録時間、電話対応時間 | | 質 | 再入院率、看取り場所一致率、患者・家族満足、職員離職率 |

地域医療構想では、医療機関機能や診療実績を客観的データに基づいて報告・協議し、2028年度までに2040年に担う医療機関機能を整理する流れが示されています。クリニック側も、自院の実績をデータで示せることが重要になります。

5. まとめ

今後のクリニック経営で最も重要なのは、外来を増やすか、在宅を増やすかではありません。

重要なのは、地域の中で、

「高齢者の急変を予防する」

「病院と在宅・施設をつなぐ」

「24時間対応をチームで持続可能にする」

「退院後の生活を支える」

という機能を明確に持つことです。

その意味では、外来+在宅+施設連携+DXを持つプライマリ・ケアクリニックは、2040年に向けてかなり有望です。ただし、勝ち筋は 規模拡大そのものではなく、地域の慢性期・在宅・高齢者救急の運用インフラになること だと思います。

参考文献

厚生労働省医政局. 地域医療構想策定ガイドライン.厚生労働省,2026年公表.


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicinecare-commons<![CDATA[「しないこと」を説明できる医療を取り戻す]]>https://paragraph.com/@smaller/explaining-not-doing k1qMhKEf1XOKP20vofFvMon, 06 Jul 2026 22:00:00 GMT

医療現場では、「念のため検査しておきましょう」「薬を出しておきましょう」「専門の先生に紹介しておきましょう」という判断が、しばしば最も安全に見えます。

もちろん、必要な検査、必要な処方、必要な紹介は、ためらわずに行うべきです。問題はそこではありません。問題は、本来は不要かもしれない医療行為であっても、「やらない」と説明するより、「やっておく」方が、現場では圧倒的に楽になっていることです。

検査をしないことを説明する。

処方しないことを説明する。

紹介しないことを説明する。

これは、実はとても高度な診療行為です。患者の不安を受け止め、疾患の確率を見積もり、重篤な疾患を見逃さないための安全策を示し、それでも「今は追加しない方がよい」と説明する必要があるからです。

しかし現在の医療制度は、この「しない医療」を十分には支えていません。むしろ、医師個人の説明力、勇気、忍耐に依存しています。その結果、過剰検査や過剰処方は、医師個人のモラルの問題として語られがちです。

私は、この見方は不十分だと思います。過剰検査や過剰処方は、単に医師が安易だから起きているのではありません。現在の医療システムが、「しない判断」よりも「する判断」を選びやすく設計されている。その構造の結果として生じているのです。

「する医療」は可視化され、「しない医療」は評価されにくい

まず大きいのは、診療報酬制度の構造です。

日本の診療報酬は、原則として実施した医療行為ごとに点数が加えられ、1点10円で計算される出来高払い制を基本にしています。検査料、薬剤料、処置料などは、実施すれば診療報酬として可視化されます。( 厚生労働省)

もちろん、すべての診療が単純な出来高払いで動いているわけではありません。包括評価、管理料、指導料もあります。それでも、外来診療の現場では、「検査をする」「薬を出す」「処置をする」ことは請求上も記録上も見えやすい一方で、「検査をしなかった」「薬を出さなかった」「紹介しなかった」ことの価値は、見えにくいままです。

たとえば、風邪に抗菌薬を出さない。

高齢者に安易に睡眠薬を追加しない。

軽症の腰痛にすぐ画像検査をしない。

偶発的な軽微な検査異常に、過剰な精査を重ねない。

これらは、患者にとって重要な医療判断です。しかし、診療報酬上は「何かを追加した医療」よりも評価されにくい。しかも説明には時間がかかります。患者の期待に反する場合には、さらに丁寧な対話が必要になります。

つまり、「しない医療」は、医学的には価値があっても、制度上は報われにくいのです。

見逃しへの恐怖が、「念のため」を強化する

次に大きいのは、防衛医療の問題です。

医師にとって最も怖いのは、「検査をしなかった結果、重篤な疾患を見逃した」と後から評価されることです。診療時点では不確実性の中で判断していても、結果が出た後には、「なぜあの時、念のため検査をしておかなかったのか」と問われます。

防衛医療に関する国際的レビューでは、法的リスクへの不安から、不要な検査、治療、紹介が行われることが報告されています。( ScienceDirect) 米国の高リスク専門領域を対象とした調査でも、防衛医療として画像検査や紹介などが行われる実態が示されています。( JAMA Network)

この知見をそのまま日本に当てはめることはできません。日本の医療訴訟環境は米国と同じではありません。それでも、「見逃しを避けるために、念のため検査しておきたい」という心理が現場に存在することは否定できません。

特に外来診療では、診察時間は限られています。患者は不安を抱えています。家族も心配しています。インターネットには重篤疾患の情報が並んでいます。前医で十分に説明されず、不信感を持って受診している患者もいます。

その中で、「今は検査しなくて大丈夫です」と説明するには、時間と技術が必要です。一方で、「念のため検査しましょう」と言えば、その場は収まりやすい。患者も安心しやすい。医師も後から責められにくい。

この非対称性が、過剰検査を生みます。

保険審査の曖昧さも、「とりあえず」を助長する

保険診療にはルールがあります。しかし、実際の臨床判断をすべて機械的に判定できるわけではありません。

医療には個別性があります。同じ検査でも、患者の背景、症状、経過、既往歴、薬剤、生活環境によって意味が変わります。したがって、保険診療のルールにも一定の裁量が必要です。

しかし、この裁量は現場にとって不確実性にもなります。請求が通るのか、査定されるのか。どこまで病名を付ければよいのか。どの程度、症状詳記を書けばよいのか。診療報酬の請求は、診療行為の後に審査支払機関へ送られ、審査を経て支払われる構造です。

この事後性が強いほど、現場では「とりあえずオーダーしておく」「通るように説明を書く」という行動が起こりやすくなります。これは単純な不正の話ではありません。曖昧で事後的なルールの中で、現場が制度に適応しているということです。

本来必要なのは、事後に査定する仕組みだけではありません。オーダーの入口で、「この条件なら妥当」「この条件では慎重に」「この条件では通常不要」と、臨床と保険の両面から判断を支える仕組みです。

低価値医療は、すでに日本でも可視化されつつある

過剰検査や過剰処方は、抽象的な印象論ではありません。

日本の急性期病院を対象にした研究では、2015年から2019年にかけて、低価値医療の提供に明確な減少傾向は確認されませんでした。( BMJ Open) また、日本のプライマリ・ケア領域を対象にした研究では、低価値医療は一部の医師に集中する傾向があり、低価値医療サービスは日本のプライマリ・ケアでも一般的に見られることが示されています。( JAMA Network)

Choosing Wisely Japanも、風邪に対する抗菌薬処方、コデイン処方、骨粗鬆症への頻回の骨密度検査など、プライマリ・ケアにおける低価値医療の実態に関する文献を紹介しています。( Choosing Wisely Japan)

ここで重要なのは、「だから医師をもっと教育すればよい」という単純な結論にしないことです。

もちろん教育は必要です。ガイドラインの理解も必要です。患者説明の技術も必要です。しかし、教育だけで構造的な非対称性は変わりません。

「する医療」は請求できる。

「する医療」は患者に説明しやすい。

「する医療」は見逃しへの防御になる。

「する医療」は記録に残りやすい。

一方で、「しない医療」は、時間がかかる。説明が難しい。責任を引き受ける感覚が強い。そして制度上の評価が低い。

この構造を変えなければ、過剰検査や過剰処方は減りにくいのです。

目指すべきは、「しない判断」を支えるシステムである

では、どうすればよいのでしょうか。

環境を整え、医師が安心して「しない判断」を説明できる仕組みを作ることが不可欠です。

第一に、電子カルテ上の診療支援を強化する必要があります。

検査や処方のオーダー時に、患者背景、症状、既往歴、直近の検査結果、ガイドライン、保険算定ルールを照合し、その行為が「推奨される」「慎重に検討すべき」「通常は不要」と表示される。さらに、不要と判断される場合には、患者説明に使える短い文章、経過観察の目安、再診基準、レッドフラッグを提示する。

ここで重要なのは、AIが医師の代わりに判断することではありません。AIは、医師が説明できるように支える道具であるべきです。

日本医師会のAI臨床利用に関する答申でも、医療AIの利用にあたっては、AIの出力に従うのではない人間が介在すること、Human-in-the-Loopを実践すること、誤りや偏りを点検することが重要だとされています。 また、医療AI利用の有無にかかわらず最終的な責任は医師が負うとされ、AIは神託のように結論を出すのではなく、理由と根拠を人間に提示することが重要だとされています。

つまり、AIに必要なのは「やれ」「やるな」と命令することではありません。医師が患者に説明できる根拠を、速く、簡潔に、臨床文脈に即して提示することです。

ハードストップではなく、理由付きオーバーライドを設計する

第二に、システム制御は必要ですが、すべてを機械的に止めるべきではありません。

明らかな重複検査、禁忌薬、相互作用、算定不能な組み合わせ、医学的妥当性が乏しい頻回検査などは、電子カルテ上で強く制限してよいでしょう。ここには、いわば「物理的なストッパー」が必要です。

ただし、臨床には例外があります。高齢者、免疫不全、在宅療養、終末期、希少疾患、患者の生活背景など、ガイドラインだけでは判断しきれない場面は多くあります。

したがって、現実的なのは「原則は止めるが、理由を記録すれば実施できる」仕組みです。

たとえば、通常は不要とされる検査を行う場合には、医師が短く理由を選択・記載する。逆に、患者が希望している検査を行わない場合にも、説明した内容、再診基準、経過観察の方針が簡単に記録される。

大切なのは、検査をする場合にも、しない場合にも、判断のプロセスが残ることです。これにより、「しない判断」は個人の感覚ではなく、標準化された臨床プロセスになります。

免責ではなく、「標準プロセスを踏んだ医療」を守る

第三に、法的・制度的な保護の発想を変える必要があります。

「AIが不要と言ったから免責される」という仕組みは、現時点では現実的ではありません。むしろ危険です。AIの誤り、データの偏り、ガイドラインの限界、患者個別性の問題があるからです。

目指すべきは、AIによる自動免責ではありません。

目指すべきは、「標準的なプロセスを踏んだ医療」を守ることです。

すなわち、ガイドラインを確認した。

患者背景を踏まえた。

重篤疾患を疑う所見を確認した。

検査や処方をしない理由を説明した。

悪化時の受診目安を伝えた。

診療録に判断過程を残した。

このような標準プロセスを踏んだ場合には、たとえ後から予期しない結果が起きたとしても、結果だけで医師個人の過失と評価されにくい制度が必要です。

これは医師を甘やかす仕組みではありません。むしろ、質の高い医療を標準化する仕組みです。

「しないこと」をチームで支える

第四に、検査・処方・紹介の適正化は、主治医一人の仕事にしない方がよいと思います。

過剰検査や過剰処方を減らすには、チームで支える仕組みが必要です。たとえば、頻回検査のレビュー、抗菌薬処方の振り返り、睡眠薬・抗不安薬の定期的な見直し、画像検査オーダーの月次監査、紹介基準の共有などです。

これは医師を監視するためではありません。個人に集中しすぎた責任を、組織のプロセスに移すためです。

「この検査はしない方がよい」

「この薬は増やさない方がよい」

「この紹介は今すぐではなく、まず経過観察でよい」

こうした判断を、医師一人が孤独に引き受けるのではなく、チームの標準方針として持てるようにする。そうすれば、「しない医療」は個人の勇気ではなく、組織の品質になります。

患者に必要なのは、拒否ではなく説明である

ここで誤解してはいけないのは、「しない医療」は患者の希望を退ける医療ではない、ということです。

患者が検査を希望する背景には、不安があります。薬を求める背景には、つらさがあります。紹介を求める背景には、納得できていない感覚があります。

だから、「必要ありません」とだけ言っても、患者は納得しません。必要なのは、拒否ではなく説明です。

なぜ今は検査しなくてよいのか。

どのような症状が出たら再診すべきなのか。

薬を出さないことで、どのような害を避けられるのか。

自然経過として、どのくらいでよくなることが多いのか。

どの時点で方針を変えるのか。

これらを説明できることが、プライマリ・ケアの価値です。

そしてこの説明を、医師個人の会話力だけに依存させないことが大切です。患者向け説明文書、電子カルテのテンプレート、AIによる説明補助、看護師やスタッフとの役割分担、再診導線の明確化。こうした仕組みがあれば、患者も医師も安心できます。

「しないこと」を説明できる自由を取り戻す

過剰検査や過剰処方を減らすことは、医療費を削るためだけの話ではありません。

不要な検査を減らすことは、患者を偶発所見、不安、追加検査、侵襲的手技から守ることです。不要な処方を減らすことは、副作用、相互作用、依存、多剤併用から患者を守ることです。不要な紹介を減らすことは、患者の時間と医療資源を守り、本当に専門医療が必要な人にアクセスを残すことです。

これから必要なのは、「もっと検査する医療」でも、「とにかく減らす医療」でもありません。

必要なのは、必要な医療を行い、不要な医療を足さないための仕組みです。

検査をしないことを説明できる自由。

処方しないことを説明できる自由。

紹介しないことを説明できる自由。

この自由は、医師のためだけのものではありません。患者にとって本当に必要な医療を選ぶための自由です。

現在の医療は、「何かをすること」には多くの制度的支えがあります。一方で、「あえてしないこと」は、医師個人の説明力と責任感に委ねられすぎています。

だからこそ、次に必要なのは、しない判断を支える医療システムです。

根拠を提示するAI。

理由を残せる電子カルテ。

患者に渡せる説明文書。

チームで共有される判断基準。

標準プロセスを踏んだ医師を守る制度。

そして、「しないこと」もまた医療の質であると評価する文化。

過剰検査と防衛医療の問題は、医師個人のモラルの問題ではありません。

「しないこと」を説明できない構造の問題です。

この構造を変えることができれば、医療はもう少し小さく、もう少しやさしく、そしてもう少し誠実になれるのだと思います。

参考文献

  1. Miyawaki, A., Sato, M., Onishi, K., et al. Prevalence and changes of low-value care at acute care hospitals in Japan, 2015–2019. BMJ Open, 2022;12:e063171. doi:10.1136/bmjopen-2022-063171.

日本の急性期病院における低価値医療の実態と推移を示す主要文献です。( BMJ Open)

  1. Choosing Wisely Japan. Choosing Wisely Japan 公式サイト.

日本におけるChoosing Wisely運動 of clinical recommendations. ( Choosing Wisely Japan)

  1. 厚生労働省. 診療報酬制度について.

診療報酬が原則として医療行為ごとに点数化され、1点10円で計算される出来高払い制であることの根拠資料です。( 厚生労働省)

  1. 厚生労働省. 保険診療の理解のために.

保険診療として診療報酬が支払われるには、関係法令・療養担当規則を遵守し、医学的に妥当適切な診療を行う必要がある、という基本資料です。( 厚生労働省)

  1. 厚生労働省. 診療行為が保険診療ルールに適合するかどうかの審査に関する資料.

保険診療ルールには一定の裁量があり、すべてを機械的に判断することは不可能で、最終的には医学的妥当性の判断が不可欠である、という論点の根拠です。( 厚生労働省)

  1. 内閣府 規制改革会議資料. 診療報酬の審査の効率化と統一性の確保.

保険診療ルールが個別性・裁量性を含むため、審査では医学的必要性・妥当性の判断が求められることを説明した資料です。( 内閣府ホームページ)

  1. Ries, N. M., & Jansen, J. Physicians’ views and experiences of defensive medicine: An international review of empirical research. Health Policy, 2021;125(5):634–642.

防衛医療について、訴訟・苦情への不安から検査・紹介などが増える「hedging-type defensive medicine」を整理した国際レビューです。( サイエンスダイレクト)

  1. Studdert, D. M., Mello, M. M., Sage, W. M., DesRoches, C. M., Peugh, J., Zapert, K., & Brennan, T. A. Defensive medicine among high-risk specialist physicians in a volatile malpractice environment. JAMA, 2005;293(21):2609–2617. doi:10.1001/jama.293.21.2609.

防衛医療の古典的実証研究です。米国ペンシルベニア州の高リスク診療科医師調査で、93%が防衛医療を行っていると回答しています。( PubMed)

  1. Lorenc, T., et al. Defensive healthcare practice: systematic review of qualitative evidence. BMJ Open, 2024;14:e085673.

防衛医療を単純に「訴訟リスク→過剰医療」とだけ見ることの限界も含めて、質的研究を整理した新しいレビューです。本文のバランスを取るために有用です。( BMJ Open)

  1. 厚生労働省. AIによる診療支援と医師の判断との関係性の整理(案).

現状ではAIが単独で診断確定や治療方針決定を行うことはできず、最終的な意思決定は医師が行う、という整理の根拠資料です。( 厚生労働省)

  1. 日本医師会. AIの臨床利用に関する検討委員会 答申. 2026年4月15日公表資料。

AIは医師の意思決定を支援するが、最終判断は医師が行うという立場を示しており、本文中の「AIを免責装置ではなく、根拠提示・記録支援・見落とし防止の仕組みとして位置づける」論点に対応します。( 日本医師会)


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[蕁麻疹の「やみくもなアレルギー検査」をやめよう]]>https://paragraph.com/@smaller/urticaria-guideline-2026 nVmg2r8vOk9ydo3Ef01tMon, 06 Jul 2026 13:40:30 GMT

蕁麻疹は日常診療で非常によく遭遇する疾患です。多くは一過性で自然に改善しますが、一部は6週間を超えて慢性化し、強いかゆみ、膨疹、血管性浮腫によって睡眠、仕事、学業、生活の質を大きく損ないます。

患者さんからは「何が原因ですか」「食べ物のアレルギーですか」「検査で全部調べられませんか」と尋ねられることが少なくありません。しかし、慢性蕁麻疹の多くは単純な食物アレルギーではなく、肥満細胞の活性化や自己免疫的な機序が関与する複雑な疾患です。

2026年に発表された国際ガイドラインでは、蕁麻疹の診療は「やみくもに原因を探す」ことよりも、病型を正しく分類し、必要最小限の検査を行い、症状を完全にコントロールすることを目標に再整理されています。

今回のガイドラインは、2022年版の改訂として、GA2LEN/UCARE・ACAREなどが中心となり、多国籍の専門家によるコンセンサス and GRADEに基づいて作成されたものです。

(※GA2LEN[欧州アレルギー喘息ネットワーク]が運営するUCAREおよびACAREは、慢性蕁麻疹と血管性浮腫に特化した専門医療機関の国際的な認定・卓越ネットワークです)

1. 位置づけ

本ガイドラインは、蕁麻疹を

で定義し、急性・慢性、自然発症性・誘発性に分類したうえで、診断と治療の標準的アプローチを示しています。

特に対象となるのは、日常診療で頻度の高い

です。

2. 分類の要点

蕁麻疹はまず 持続期間 で分類します。

慢性蕁麻疹はさらに、

に分けられます。

また、蕁麻疹様の皮疹を呈するが病態が異なる疾患として、 蕁麻疹様血管炎、肥満細胞症、自己炎症性疾患、ブラジキニン介在性血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、Schnitzler症候群、Still病、好酸球増多関連疾患 などを鑑別に挙げています。

3. 病態の理解

蕁麻疹は基本的に 肥満細胞 mast cell-driven disease とされます。ただし、単純な「ヒスタミンだけの病気」ではなく、IgE自己抗体、IgG自己抗体、好酸球、好塩基球、T細胞、B細胞、神経ペプチド、補体・凝固系など複数の因子が関与します。

慢性自発性蕁麻疹では、とくに

が重要な病型として整理されています。

4. 診断の基本方針

診断の第一歩は、詳細な 病歴聴取身体診察 です。膨疹や血管性浮腫は診察時に消えていることも多いため、患者が撮影した写真も有用とされています。

急性蕁麻疹

急性蕁麻疹は自然軽快が多いため、原則として ルーチン検査は推奨されません。例外は、病歴から食物アレルギー、薬剤過敏、NSAIDs関連などが強く疑われる場合です。

慢性自発性蕁麻疹 CSU

CSUでは、全例で広範な原因検索を行うのではなく、 限定的な基本検査 が推奨されています。

基本検査は、

専門診療では追加で、

が挙げられています。

ただし、総IgEや抗TPO抗体は病型や治療反応性の参考にはなるものの、診断精度や予測能には限界があるとされています。つまり、 慢性蕁麻疹に対して網羅的な特異的IgE検査や食物アレルギー検査を広く行う方針ではありません

慢性誘発性蕁麻疹 CIndU

CIndUでは、問診に加えて、寒冷・圧迫・温熱・日光・運動などの 誘発試験と閾値測定 が重視されています。

5. 評価指標

慢性蕁麻疹では、毎回の診療で

を評価することが推奨されています。

代表的な指標は、

です。

治療目標は、単なる軽減ではなく、 完全な症状コントロール、すなわち UAS=0、UCT=16、QOL正常化を目指すと明記されています。

6. 治療アルゴリズム

治療は段階的です。

第1段階:第2世代H1抗ヒスタミン薬

すべての蕁麻疹に対して、第一選択は 第2世代H1抗ヒスタミン薬 です。第1世代抗ヒスタミン薬は、鎮静、抗コリン作用、認知・学習・運転への影響などから、ルーチン使用は推奨されません。

第2段階:第2世代H1抗ヒスタミン薬の増量

標準量で不十分な慢性蕁麻疹では、 同一の第2世代H1抗ヒスタミン薬を最大4倍量まで増量 することが推奨されています。

一方で、

とされています。

第3段階:オマリズマブ

高用量抗ヒスタミン薬で不十分な場合、 オマリズマブ追加 が推奨されています。CSUに対して有効性・安全性のエビデンスが強く、標準用量は300mg 4週ごとです。

効果不十分例では、国や保険適用により制限はありますが、用量増量・投与間隔短縮が検討される場合があります。

新規治療:デュピルマブ、レミブルチニブ

本ガイドラインでは新規薬剤として、

も治療アルゴリズムに組み込まれています。

デュピルマブはIL-4/IL-13経路を阻害し、喘息、鼻茸、アトピー性皮膚炎などの併存疾患がある場合に有用性が期待されます。レミブルチニブはBTK阻害薬で、抗ヒスタミン薬抵抗性CSUへの経口治療薬として位置づけられています。ただし、各国での承認状況・保険適用は別途確認が必要です。

第4段階:シクロスポリン

標準治療で不十分な重症例では、 シクロスポリン が選択肢になります。ただし、副作用リスクがあるため標準治療ではなく、難治例に限定して慎重に使用する位置づけです。

ステロイド

慢性蕁麻疹に対する 長期ステロイド使用は推奨されません。急性増悪時に限り、短期間、最大10日程度のレスキュー使用は検討可能とされています。

7. 食事・感染・ストレス・薬剤

慢性蕁麻疹において、IgE依存性食物アレルギーが原因であることは 極めて稀 とされています。

一方で、悪化因子として、

8. 終わりに:診察室でできること

日々の診察室で「早く、検査をして、原因を見つけてほしい」と願う患者さんのお気持ちに寄り添うことは大切です。けれど、データやガイドラインが示すのは、やみくもな検査が患者さんの不安を長期化させ、必要のない過剰な制限(厳格すぎる食事制限など)を強いることになりかねない、という現実です。

「何が原因か、現時点で特定することはできません」という事実は、患者さんにとっては冷たく響くかもしれません。しかし、だからこそ医療者が示すべきなのは、原因探しよりも前に「目の前の今ある苦痛を、段階的な治療で完全にコントロールできる」という具体的な見通しと、信頼に足る選択肢を提示することなのだと思います。

やみくもな「原因探し」ではなく、症状が出ず、薬の副作用にも悩まされない「いつもの日常」へとそっと手を引くこと。診察室で私たちは、その道筋を言葉にし、一緒に歩き出すつなぎ手でありたいと願っています。


※この記事はAI共創型コンテンツです。

■ AI

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicineebm<![CDATA[がん検診は「効くか」から「どれだけ得か」へ]]>https://paragraph.com/@smaller/cancer-screening jBOroWOrU8ADf5nccEPuMon, 29 Jun 2026 13:06:15 GMTがん検診について語るとき、私たちはつい「受けたほうがよいのか、受けなくてよいのか」という二択で考えがちです。しかし、検診の評価で本当に重要なのは、単に「効果があるか」ではありません。

大切なのは、 どのアウトカムがどれだけ改善するのか、その利益のために、 どれだけの偽陽性・過剰診断・合併症・心理的負担を引き受けるのか です。

今回取り上げる2本の論文は、まさにその点を考えるうえで非常に示唆的です。1本は、前立腺特異抗原、いわゆるPSAを用いた前立腺がん検診に関するCochraneレビュー。もう1本は、大腸内視鏡による大腸がんスクリーニングの長期効果を検証したNordICC試験の13年追跡結果です。前者は「PSA検診は前立腺がん死を少し減らす可能性が高い」と示し、後者は「大腸内視鏡は大腸がん罹患を減らすが、13年時点で死亡減少は明確ではない」と示しました。( PubMed)

1. PSA検診:前立腺がん死は減る。ただし絶対効果は小さい

2026年に更新されたCochraneレビューでは、PSA検診に関する6つのランダム化比較試験、計789,086人が解析対象となりました。対象は45〜80歳の男性で、主要なエビデンスはERSPC、PLCO、CAPといった大規模試験から構成されています。追跡期間は3.2〜23年と幅があります。( PubMed)

このレビューで最も重要な結果は、PSA検診により 前立腺がん特異的死亡が減少する可能性が高い という点です。感度分析の中心となったERSPCでは、前立腺がん死亡の率比は0.87、95%信頼区間は0.80〜0.95でした。絶対差としては、前立腺がん死が1000人あたり約2人少なくなる、という規模です。( PubMed)

一方で、総死亡については率比0.99、95%信頼区間0.97〜1.00で、明確な低下とは言い切れません。これはPSA検診に限らず、多くのがん検診で見られる構図です。疾患特異的死亡は減っても、その疾患による死亡が全死亡に占める割合が小さいため、総死亡の差としては非常に小さく、検出も困難になります。( PubMed)

2. それでもPSA検診が難しい理由:過剰診断と治療関連害

PSA検診の難しさは、「効かない」ことではありません。むしろ今回のCochraneレビューは、長期追跡を含めると前立腺がん死を減らす方向にエビデンスが傾いていることを示しています。

問題は、 その利益が小さい一方で、検診に伴う害が現実的に存在する ことです。

PSAは前立腺がんに特異的なマーカーではなく、前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇します。そのため偽陽性が生じ、追加検査や生検につながります。米国予防医学専門委員会、USPSTFは、PSA検診の害として、偽陽性、前立腺生検、過剰診断、過剰治療、さらに根治療法後の尿失禁・勃起障害・腸管症状などを挙げています。( 米国予防サービス作業部会)

特に重要なのは 過剰診断 です。前立腺がんには、生命予後に影響しないまま経過する低リスクがんが少なからず存在します。検診はこうしたがんも見つけます。見つかった以上、患者も医療者も「何もしない」ことに心理的負担を感じやすく、結果として治療関連害が生じる可能性があります。

今回のCochraneレビューでも、PSA検診は前立腺がん診断を増やし、限局がんの診断を増やしました。一方で、転移性前立腺がんの診断は減る可能性が示されました。つまりPSA検診は、早期がんをより多く見つけ、進行・転移がんを一部減らす可能性がありますが、その過程で「見つけなくてもよかったがん」も拾い上げる、ということです。( PubMed)

3. 先行研究はどう変わってきたか

PSA検診については、長らく評価が割れてきました。2013年のCochraneレビューでは、PSA検診は前立腺がん特異的死亡や総死亡を有意に減らさない、という結論でした。しかし、その後、大規模試験の長期追跡が蓄積され、今回の更新につながりました。( PubMed)

CAP試験の15年追跡を用いた2024年のJAMA論文では、50〜69歳男性415,357人を対象に、PSA検査への一回の招待と通常ケアを比較しました。前立腺がん死亡は介入群0.69%、対照群0.78%で、相対リスク0.92、95%信頼区間0.85〜0.99でした。統計学的には前立腺がん死亡が減少しましたが、絶対差は0.09%と小さいものでした。( University of Bristol)

ERSPCについても長期追跡では、PSA検診による前立腺がん死亡減少効果が持続することが報告されています。一方で、スクリーニングの害、特に過剰診断をどう減らすかが今後の課題であり、リスクに応じた検診戦略の重要性が指摘されています。( New England Journal of Medicine)

この流れを踏まえると、PSA検診の現在地は「無効」ではありません。むしろ、 効果はあるが小さい。したがって、誰に、どのように、どの頻度で行うかを個別化すべき検診 と考えるのが妥当です。

4. MRIやカリクレイン検査はPSA検診の害を減らすか

近年は、PSA単独ではなく、リスク計算、カリクレインパネル、MRIなどを組み合わせ、不要な生検や過剰診断を減らそうとする流れがあります。今回のCochraneレビューにも、PSA・カリクレイン・MRIを組み合わせた検診の予備的な試験が含まれています。

ただし、この試験では、死亡や転移といった長期アウトカムはまだ報告されていません。Cochraneレビューは、PSA・カリクレイン・MRIを組み合わせた新しい検診戦略について、現時点では死亡や転移を減らすかどうかは不明としています。( PubMed)

「新しい検査を組み合わせれば検診全体の利益が確実に改善する」とまではまだ言えません。ここは今後のエビデンスを待つ必要があります。

5. 大腸内視鏡検診:がんは減るが、死亡減少は明確ではない

次に、大腸内視鏡検診です。

NordICC試験は、ノルウェー、ポーランド、スウェーデンで行われた多国籍・住民ベースのランダム化比較試験です。55〜64歳の男女84,583人を、大腸内視鏡検診への招待群と通常ケア群に1:2で割り付けました。今回のLancet論文は、その13年追跡結果です。( PubMed)

13年時点で、大腸がん罹患は検診招待群で1.46%、通常ケア群で1.80%でした。相対リスクは0.81、95%信頼区間は0.71〜0.90であり、 大腸内視鏡検診への招待は大腸がん罹患を有意に減らしました。( PubMed)

一方で、大腸がん死亡は検診招待群0.41%、通常ケア群0.47%で、相対リスク0.88、95%信頼区間0.68〜1.08でした。つまり、13年追跡でも、intention-to-screen解析では大腸がん死亡の有意な低下は示されませんでした。( PubMed)

この結果を読むときに重要なのは、NordICC試験が「大腸内視鏡という検査そのもの」ではなく、 大腸内視鏡検診に招待するという政策・プログラムの効果 を評価している点です。

6. NordICC試験をどう解釈するか:検査の効果と検診プログラムの効果は違う

NordICC試験の10年追跡では、検診招待群のうち実際に大腸内視鏡を受けたのは42.0%でした。10年時点でも大腸がん罹患は低下しましたが、大腸がん死亡や全死亡の有意な低下は示されませんでした。( Default)

13年追跡でもこの構図は大きく変わっていません。大腸がん罹患は減る。しかし、死亡減少は統計学的に明確ではない。

ただし、これをもって「大腸内視鏡は意味がない」と読むのは誤りです。実際に大腸内視鏡を受けた人を基準にしたper-protocol解析では、大腸がん罹患の相対リスクは0.55と、より大きな低下が示されています。ただし、per-protocol解析は自己選択バイアスの影響を受けやすく、ランダム化比較の最も保守的な解釈としてはintention-to-screen解析を重視すべきです。( PubMed)

また、13年追跡の論文では、対照群の大腸がん死亡率が、試験設計時に想定された0.82%より低く、実際には0.47%だったことも示されています。死亡イベントが想定より少なければ、死亡減少効果を検出する統計学的パワーは低下します。( PubMed)

つまりNordICC試験は、こう言っているように読めます。

大腸内視鏡は大腸がんを減らす力を持つ。しかし、住民全体に一度招待するだけの検診プログラムとしては、死亡を明確に減らすほどの効果を示すには、受診率・検査品質・ベースラインリスク・追跡期間が大きく影響する。

7. 大腸内視鏡の効果は部位によっても違う

NordICC試験の13年追跡では、大腸がん罹患の減少は近位結腸がんよりも遠位大腸がんで明瞭でした。遠位大腸がんでは相対リスク0.79でしたが、近位大腸がんでは相対リスク0.91で、信頼区間は1をまたいでいました。( PubMed)

これは先行研究とも整合的です。内視鏡的スクリーニングは、遠位大腸がんの予防効果が比較の一貫して示されてきました。一方で、近位結腸がんに対する効果は、腸管前処置、盲腸到達率、腺腫発見率、鋸歯状病変の検出、内視鏡医の技量などに左右されやすいと考えられます。

ここでもポイントは、単に「大腸内視鏡をしたかどうか」ではなく、 質の高い大腸内視鏡が、適切な間隔で、適切な人に行われたか です。

8. 日本の文脈:便潜血検査は推奨、大腸内視鏡一次検診は慎重に

日本の大腸がん検診を考えるうえでは、2024年度版の国立がん研究センターによる「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」が参考になります。同ガイドラインでは、免疫法便潜血検査、FITは死亡率減少効果について十分な証拠があるとして、対策型検診・任意型検診のいずれにも推奨されています。開始年齢は40歳が推奨され、終了年齢は74歳が望ましいとされています。( がん対策研究所)

一方、全大腸内視鏡検査については、死亡率減少効果の証拠はまだ不確実であり、対策型検診としては推奨されていません。ただし、任意型検診では、利益と不利益を説明したうえで個別判断により実施可能とされています。また、便潜血陽性者に対する精密検査としての大腸内視鏡や、内視鏡治療としての意義は変わりません。( がん対策研究所)

NordICC試験の結果は、この日本の方針と大きく矛盾しません。集団全体を対象にした一次検診としては、FITを軸にし、陽性者を確実に大腸内視鏡へつなげることが現実的です。大腸内視鏡を一次検診として広く導入する場合には、受診率、検査キャパシティ、偶発症、内視鏡の質、費用対効果を慎重に評価する必要があります。

9. 2つの論文から見える、がん検診の共通原則

PSA検診と大腸内視鏡検診は、対象がんも検査法も異なります。しかし、この2本の論文を並べて読むと、がん検診に共通する重要な原則が見えてきます。

第一に、 絶対リスク差を見る必要がある ということです。PSA検診では前立腺がん死の相対的低下が示されましたが、絶対差は1000人あたり数人規模です。大腸内視鏡検診でも、大腸がん罹患は有意に減りましたが、死亡の絶対差は小さく、13年時点で統計学的に明確ではありません。( PubMed)

第二に、 検診の利益は遅れて現れ、害は早く現れる ということです。偽陽性、追加検査、生検、内視鏡偶発症、治療関連合併症、不安は比較的早期に発生します。一方で、死亡減少という利益が見えるまでには長い時間がかかります。PSA検診に関してUSPSTFも、利益と害のバランスを踏まえた個別意思決定を重視しています。( 米国予防サービス作業部会)

第三に、 検査そのものの性能と、検診プログラムとしての効果は同じではない ということです。大腸内視鏡は前がん病変を切除できる強力な検査ですが、検診プログラムとしての効果は、受診率、検査の質、精検受診率、対象集団のリスクに依存します。NordICC試験は、この現実世界での「招待すること」の効果を示した点に価値があります。( Default)

第四に、 これからの検診は個別化へ向かう ということです。PSA検診では、年齢、家族歴、遺伝的リスク、PSA値の推移、MRI、バイオマーカーを組み合わせ、過剰診断を減らしながら高リスクがんを拾う方向へ進んでいます。大腸がん検診でも、年齢、便潜血結果、既往歴、家族歴、ポリープ歴、内視鏡キャパシティを踏まえた戦略が重要になります。

10. 患者さんへの説明はどう変わるか

PSA検診については、「受ければ安心です」とも「意味がありません」とも説明すべきではありません。より正確には、次のような説明になります。

💡 前立腺がん検診

PSA検診は、長期的には前立腺がんで亡くなるリスクを少し下げる可能性があります。一方で、がんではないのに陽性になること、進行しないがんが見つかること、生検や治療による合併症が起こることがあります。特に55〜69歳では、利益と不利益を理解したうえで、本人の価値観に基づいて決める検査です。70歳以上では、一般に害が利益を上回りやすくなります。

大腸がん検診については、こう説明できます。

💡 大腸がん検診

大腸内視鏡はポリープを切除できるため、大腸がんの発生を減らす力があります。ただし、住民全体に一度内視鏡検診へ招待するだけでは、13年追跡でも大腸がん死亡の有意な減少は示されていません。日本の対策型検診では、まず便潜血検査を定期的に受け、陽性の場合に必ず大腸内視鏡を受けることが重要です。

まとめ

今回の2本の論文は、がん検診をめぐる議論を一段成熟させるものです。

PSA検診は、前立腺がん死を減らす方向にエビデンスが更新されました。しかし、その絶対効果は小さく、過剰診断や治療関連害を無視することはできません。したがって、PSA検診は「全員に一律に勧める検査」ではなく、リスクと価値観に応じて選ぶ検査と考えるべきです。

大腸内視鏡検診は、大腸がん罹患を減らしました。しかし、13年追跡でも死亡減少は明確ではありませんでした。この結果は、大腸内視鏡の価値を否定するものではなく、検診プログラムとしての実効性には、受診率、検査品質、対象集団のリスクが大きく関わることを示しています。

がん検診は、「受けるか、受けないか」だけの問題ではありません。

誰に、どの検査を、どの頻度で、どのような説明とフォロー体制のもとで提供するか。

この問いに丁寧に向き合うことが、これからの検診医療に求められています。

参考文献

  1. Juan Va Franco, Hwang EC, et al. Prostate-specific antigen (PSA) test for prostate cancer screening. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2026;5:CD004720. doi:10.1002/14651858.CD004720.pub4. ( PubMed)

  2. Kaminski MF, Bretthauer M, et al.; NordICC Study Group. Long-term effects of colonoscopy screening on colorectal cancer incidence and mortality: a multicountry, population-based randomised controlled trial. Lancet. 2026;407:1787-1795. doi:10.1016/S0140-6736(26)00508-8. ( PubMed)

  3. Bretthauer M, Løberg M, Wieszczy P, et al. Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death. New England Journal of Medicine. 2022;387:1547-1556. doi:10.1056/NEJMoa2208375. ( Default)

  4. Martin RM, Donovan JL, Turner EL, et al. Effect of a Low-Intensity PSA-Based Screening Intervention on Prostate Cancer Mortality: The CAP Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024. doi:10.1001/jama.2024.4011. ( University of Bristol)

  5. U.S. Preventive Services Task Force. Recommendation: Prostate Cancer: Screening. 2018. ( 米国予防サービス作業部会)

  6. 国立がん研究センター. 有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版. ( がん対策研究所)

  7. 国立がん研究センター. 有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版を公開. 2025年2月13日. ( 国立情報学研究所)


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)ebmsmall-medicine<![CDATA[下り坂を受け入れるケア]]>https://paragraph.com/@smaller/downhill-care uCoDXjdazt6ULswCreGLSun, 28 Jun 2026 08:13:29 GMT2026年5月10日に開催された、 こくフェス presents「回復の物語は音楽とアートとともに 〜下り坂を受け入れるケア〜」。そのなかで行われた基調講演をベースに、一つのエッセイとして再構成しました。


夕暮れ時のカフェで、あるいは帰り道の駅のホームで。 ふと、音楽に心がほどける瞬間がある。 あるいは、飾られた絵の筆致に、言葉にできない何かが通じる瞬間がある。

病気を「治す」ことだけではどうしても届かない領域があります。 人生の後半に差し掛かったとき、あるいは治らない病や障害とともに生きることになったとき。 その変化を抱えながら生きていく時間を、音楽やアートといった表現の力が静かに支えることがある。 私はそう信じています。

人生の山を降りていく風景

下り坂の風景とその歩き方

地域医療の現場で、私たちは日々「回復」という言葉に向き合っています。 病気の前の健やかな体に戻ること、衰えた機能を元の水準まで高めること。 それらはもちろん、回復の大切な意味です。

しかし、年齢を重ねることや、治らない病を引き受ける過程においては、回復は少し違ったかたちをとるのではないでしょうか。

昨日までできていたことが、少しずつできなくなっていく。 緩やかに、しかし確かに、人生の坂道が下りへと傾斜を変えていく。 もし、医療やケアの目的が「高い山に登り続けること」だけなのだとしたら、その過程はただの敗北であり、喪失の連続にしか見えなくなってしまいます。

ですが、下り坂にだって、その土地にしかない美しい風景があります。 そこをどう支え合って歩くかという、固有の手法があるはずです。 それを見出していくことこそが、私たちが取り組みたい「もう一つの回復の物語」なのです。

日常のこわばりを弛緩させるもの

表現という、小さな気配

音楽や絵画をケアに用いるとき、それは魔法のように一瞬で痛みを消し去ったり、病気を消滅させたりするものではありません。

それは、こわばり、硬く凍りついてしまった日常や関係性のなかに、そっと「温かな亀裂」を入れるような作業です。

音楽を聴き、あるいは自ら奏でることで、閉ざされていた過去の記憶や感情が、かすかに震えながらほどけていく。 アートに触れ、手を動かすことで、言葉にできないつらさや生きてきた証が、静かにその場に差し出される。 その「ほどける時間」そのものが、その人らしさを取り戻し、この坂道を歩み続けるための微かな力に変わります。

ほどける時間を、ともに待つという倫理

効率ではない、ただ待つことの純粋さ

いま、社会のあらゆる場所が「効率」や「成果」という冷たい尺度で測られています。 医療も例外ではありません。「これを施せば、これだけの効果が出る」という原因と結果の明快なシステム。

しかし、表現をそのような道具的な処方箋として捉え直してしまっては、そこに宿る本質的な豊かさは逃げていってしまいます。

ケアの本質とは、相手をこちらの意のままにコントロールすることではなく、ただそこに気配を添えて場を共有し、何かがほどける時間を辛抱強く、共に待つこと。 それはとても時間がかかり、一見非効率的で、けれどどこまでも人間的な対話なのだと思います。

下り坂をなくすことは、誰にも不可能です。 でも、その坂道を一人きりで歩かなくてもいいように、隣に寄り添うことはできる。 その傍らに、小さな音楽があり、ことばがあり、分かち合える場があること。

「ケアと表現の研究室」での取り組みは、このような地域のケア・コモンズを、急がず、手探りでつくっていく試みです。


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]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)creative-carecare-expression-labreport<![CDATA[ケアと表現の研究室]]>https://paragraph.com/@smaller/care-expression-lab-guide kiD9YFDdPk53VyrD2cGMFri, 26 Jun 2026 21:30:00 GMT

ケアは、もっと自由であっていい

効率や管理という数字が、いつの間にか私たちの日常を包み込んでいます。 医療や福祉の現場でも、効率的な手続きやシステムばかりが重んじられる。 そんな窮屈さの中で、私たちは大切な何かを取りこぼしてはいないでしょうか。

もっと手触りのある、一人ひとりに寄り添うケア。 制度の枠組みからはみ出してしまうような、小さな声に耳を傾けること。

私たちがケアと表現の研究室をひらいた理由は、まさにそこにあります。 効率や管理とは異なる、もう一つのケアのかたちを、表現という窓を通じて探り直したい。 そう考えたからです。

なぜ、表現なのか

表現と聞くと、何か特別な才能や、高尚な美術を思い浮かべるかもしれません。 しかし、ここで考える表現とは、もっとささやかな、誰もが日常で行っている営みのことです。

誰かの話を少し聴く。 自分の気持ちを、そっと言葉にしてみる。 お気に入りの音に身を委ねる。 あるいは、静かに絵を創る。

それらすべてが、自分自身を、破壊とのつながりを保ち直すための表現です。 社会的処方が、既存のコミュニティや 担い手 に人を結びつけるように。 私たちは、表現という手段が、孤立した個人と地域をつなぐ、温かなともしびになると信じています。

四つの、小さな探求

研究室では、以下の四つのフィールドを軸に社会実装を目指した探求を進めています。

これらは個別のプログラムではありません。 すべてが緩やかに絡み合いながら、地域のケア・コモンズを形作っていきます。

扉は、どこにでも開いている

すでに、いくつかの場所で小さな活動が始まろうとしています。

noteでは、音楽やアートとケアをめぐる活動のエッセイを綴り、MOSHでは具体的な対話の場の予定公開を準備しています。 もしご興味があれば、それぞれの窓口ものぞいてみてください。

この場所には、決まったルールも、急ぐべき結論もありません。 いつでも、あなたのタイミングで、このささやかな灯りに触れにきてください。

ケアと表現の探求や、地域医療・家庭医療をめぐる日々の思索は、ニュースレター「Small Medicine」にてそっとお届けしています。もしよろしければ、以下からご登録のうえ、静かなお便りを受け取っていただければ幸いです。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実踐と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labcreative-caresocial-prescribing<![CDATA[公と私のあいだにある庭]]>https://paragraph.com/@smaller/garden2 Z8sNTWxWfEZj5LByLUu9Sun, 21 Jun 2026 23:00:00 GMT私たちは普段、「公」と「私」を分けて考えています。

公とは、社会、制度、道路、学校、病院、職場のような場所です。 私とは、家、身体、内面、家族、記憶、祈りのような領域です。

しかし、暮らしはその二つだけで成り立っているわけではありません。公でもなく、私でもない。そのあいだに、人が少し立ち止まり、身体を整え、自分の内側と外の世界をつなぎ直す場所があります。

以前の記事 「リアルとデジタルをつなぐ『庭』の思考実験」 では、庭を 「公と私のあいだにある“あわい”」であり、「身体と世界のインターフェース」でもある と考えました。

宇野常寛さんの『庭の話』 は、このような中間領域としての「庭」を、現代社会を考えるための概念として提示しています。ここでいう庭は、単なる植物や景観のことではありません。人間が外界に触れながら、完全には飲み込まれないための場所です。

『庭の話』に出てくる庭の例

『庭の話』では、庭的な場所の例として、いくつかの具体的な実践が取り上げられています。

たとえば、武蔵小金井の「ムジナの庭」です。ここでは、植物や廃材などの事物、ものづくり、ケア、就労支援がゆるやかに関係しています。人がひとつの目的に動員されるのではなく、それぞれの距離を保ちながら場に関わっていく。そのあり方が、庭的な場所として示されています。

また、高円寺の銭湯「小杉湯」も挙げられています。銭湯は、完全な私的空間ではありません。一方で、道路や駅前広場のようなむき出しの公共空間でもありません。身体を洗い、温め、くつろぐという生活の行為を通じて、人が他者とゆるやかに同じ場所を共有します。

さらに、喫茶ランドリーや、鎌倉市のサーキュラーエコノミーの取り組みも、庭的な実践として検討されています。そこでは、人だけでなく、もの、場所、作業、循環、地域の関係が重なっています。

これらの例に共通しているのは、庭が単なる「居場所」ではないということです。庭とは、人間同士が集まるだけの場所ではなく、人間以外の事物も含めた関係が動いている場所です。

庭の条件

『庭の話』における庭の条件は、次のように整理できます。

  1. 人間が事物とコミュニケーションを取る場所であること

  2. 事物たちの生態系が豊かに存在していること

  3. 人間は関与できるが支配できないこと

  4. 事物の側から人間にコミュニケーションがとられること

  5. そのコミュニケーションが人間を不可逆に変身させること

  6. 人間を孤独にすること

ここで重要なのは、庭が人間のためだけに設計された空間ではないということです。庭では、人間が事物に働きかけるだけではありません。植物、土、水、石、道具、建物、季節、光、風といった事物の側からも、人間に働きかけがあります。

人間は庭に関与します。しかし、完全には支配できません。むしろ、事物との関係の中で、人間のほうが少し変えられていきます。庭に入る前と、庭を通った後では、身体の感覚や時間の流れ方がわずかに変わる。その変化は、小さいけれど不可逆です。

また、庭は人間を孤独にする場所でもあります。これは孤立させるという意味ではありません。人間同士の評価や承認から少し離れ、事物と一対一で向き合うための孤独です。

古くからある典型的な庭として

この条件に照らすと、ぼくは、神社もまた典型的な「庭」ではないかと考えています。

神社では、人間はまず人間ではないものに向き合います。神、木、石、水、風、土、鳥、虫、苔、光、季節、土地の記憶。参拝者は、誰かに評価されるために神社へ行くのではありません。神前に立ち、自分の願い、感謝、不安、祈りを、人間外の存在に向けます。

とくに鎮守の森をもつ神社では、人間外の事物同士が関係しています。木々が日陰をつくり、落葉が土に戻り、苔が石に生え、鳥や虫が棲みます。雨が社殿や石畳を濡らし、風が注連縄や木の葉を揺らします。

神社は、人間が維持しています。掃除をする。祭礼を行う。参道を整える。社殿を修復する。木を剪定する。地域の人々が関わり、神職が管理する。神社は人間の関与なしには保たれません。

一方で、神社は人間が完全に支配できる場所ではありません。神木は簡単には伐れません。古い石や祠は効率だけで動かせません。土地の記憶や由緒は、合理性だけでは処理できません。祭礼の日取りや作法には、個人の都合を超えた時間があります。

ここに、神社の庭性があります。

事物の側から、人間が呼びかけられる

神社では、人間が神社を利用するだけではありません。むしろ、神社の側から人間に働きかけがあります。

鳥居をくぐると、身体の感覚が変わります。参道を歩くと、歩幅や速度が変わります。手水で手を清めると、外界の時間から少し離れます。木々の暗さ、石の冷たさ、水の感触、風の音、拝殿の前の沈黙が、人間の身体に働きかけます。

人間は自分の意思で参拝しているようでいて、同時に、場のほうから姿勢を変えられています。声を落とす。背筋を伸ばす。頭を下げる。手を合わせる。普段の自分とは少し違う身体になります。

つまり神社では、事物の側から人間にコミュニケーションがとられています。

小さな変身と孤独

神社を出たあと、人は大きく変わるわけではないかもしれません。

それでも、鳥居をくぐり、参道を歩き、手を合わせたあとでは、入る前とまったく同じではありません。自分の願いを言葉にする。亡くなった人を思う。不安を一度、外に置く。頭を下げる。

それは小さな変化ですが、不可逆な変身です。

また、神社は人を孤独にします。誰かと一緒に参拝していても、手を合わせる瞬間には、ひとりになります。神前で願うことや祈ることは、他者に説明しきれない私的な行為です。

神社は、公共空間の中にありながら、人間を一時的に人間同士の評価や会話から切り離します。そして、事物や神や土地の記憶と向き合うための孤独を与えます。

この孤独は、寂しさではありません。世界と向き合うための、静かな孤独です。

身体と世界のインターフェース

神社は公共空間に見えます。多くの神社は誰でも参拝できます。しかし、道路や駅前広場のように、ただ自由に通過する場所でもありません。

神社は、外界を遮断する場所ではありません。しかし、外界の刺激をそのまま身体に浴びせる場所でもありません。外界をいったん受け止め、身体が耐えられる形に変換する場所です。

その意味で、神社は 「身体と世界のインターフェース」 です。

神社は、完全な公でも、完全な私でもありません。公の中にありながら、私的な祈りや弱さを一時的に置くことができる場所です。

だからこそ、神社は『庭の話』で示された庭の条件に合致する、古くからある典型的な庭なのではないでしょうか。

参考文献

Small Medicine. (2024, December 27). リアルとデジタルをつなぐ「庭」の思考実験. Paragraph. https://paragraph.com/@smaller/garden

宇野, 常寛. (2022, December 2). これからの公共空間=「庭」の条件とはなにか(『庭の話』#2). note. https://note.com/wakusei2nduno/n/n81364083d979

宇野, 常寛. (2024). 庭の話. 講談社.

宇野, 常寛. (2024, December 9). 『庭の話』が100倍面白くなる自己解説テキスト. note. https://note.com/wakusei2nduno/n/n26fcd18b8923

神社本庁. (n.d.). 境内について. https://www.jinjahoncho.or.jp/omairi/keidai/

神社本庁. (2024, July 1). 参拝方法. https://www.jinjahoncho.or.jp/omairi/sanpai/


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicinecare-commons<![CDATA[誰かが来なくなったことに気づく人]]>https://paragraph.com/@smaller/candc2 uGQYC50PJeFZ3wM45hX9Sun, 21 Jun 2026 09:00:52 GMT買い物のついでに、用事のついでに、 いつもの顔がそこにいる——その積み重ねのなかで、誰かがそっと気にかけられている。

体調の変化に最初に気づくのは、そんな接点のある身近な人なのかもしれません。

レジの向こうの、顔なじみ

スーパーのレジに、長く立っている人がいます。

毎日のように来る人。 かごの中身で、その人の暮らしがなんとなく分かります。 ひとり分の総菜。決まった銘柄のお茶。 「今日は寒いですね」の一言を、いつも交わす人。

その人が、しばらく来ない。 「最近、お見かけしないな」と、ふと思います。 名前も住所も知りません。それでも、来なくなったことには気づいています。

いつもの席、いつもの一杯

喫茶店のマスターにも、同じまなざしがあります。

毎朝、同じ席に座る人。 頼むものも、だいたい決まっています。 言葉は多くないけれど、その人がいる時間が、店の風景になっています。

ある日から、その席が空いたままになります。 マスターは騒ぎ立てません。 ただ、次に来たときに「久しぶりですね」と言えるように、覚えています。

季節の変わり目に、預けにくる

クリーニング店の人は、季節とともにやってくる客を知っています。

衣替えのころ、まとめてコートを預けにくる人。 受け取りにくる日の、少し疲れた様子。 そんな細かな変化に、自然と気づいています。

預かったものが、いつまでも取りに来られないとき。 何かあったのかもしれない、と心のどこかに引っかかります。

気づく人がいなくなっていく

こうした日々の接点は、いま静かに細くなっています。

スーパーのレジは、セルフレジに変わっていきます。 店は無人化し、注文は画面の上で完結します。 効率は上がります。その代わり、 「最近お見かけしないな」と思ってくれる人との接点も、少しずつ消えていきます。

And, もう一段深いところで起きていることがあります。 個人商店が減り、顔なじみの店主がいなくなる。 働く人は入れ替わり、誰かを長く覚えているという関係そのものが生まれにくくなっています。 接点が消えるだけではありません。 誰かが来なくなったことに気づく、その役割を担う人自体が、地域からだんだんいなくなっていきます。

誰にも気づかれないまま、来なくなる。 そういう人が増えていく社会に、私たちは向かっているのかもしれません。

だからこそ、まだ街に残っている担い手の気づきは、これまで以上に貴重になります。

その気づきを、どうつなぐか

レジ係も、マスターも、クリーニング店の人も、すでに担い手です。 資格があるからではなく、その人を覚えていて、変化に気づくからです。

問題は、その気づきが、次にどうつながるか。 「最近どうされたかな」が、心配のまま消えてしまうのか。 それとも、必要な支えに届く一本の線になるのか。

ここで動くのが、つなぎ手——リンクワーカーです。 そして、つなぎ手もまた、すでに地域にいます。 民生委員、地域包括支援センターの職員、町内の世話役、おせっかいな誰か。

かかりつけ家庭医の役割は、自分が一人でつなぎ、新しい連携役をゼロから作ることでもありません。 担い手の存在に気づき、すでにいるつなぎ手と信頼を結び、その力を生かすことだと思います。

担い手は、もう街にいます。 しかし、放っておけば、その数は静かに減っていきます。 気づく人が残っているうちに、その気づきを、どう支えにつないでいくか。問われているように思えます。


つなぎ手をめぐる問いは、こちらの記事で掘り下げています。

社会的処方を「誰がつなぐか」— 現場で動かすための実装ノート

この活動について → ケアと表現の研究室


※この記事はAI共創型コンテンツです。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labsocial-prescribingcare-commons<![CDATA[担い手は、もう街にいる]]>https://paragraph.com/@smaller/care-resources-already-here zXuk5ksjtpDIlIHw5PVxSat, 20 Jun 2026 21:00:00 GMT駅前の図書館に、いつも来る人の顔を覚えている司書がいます。

夕方の銭湯の番台に、常連の様の変化に気づく人がいます。

路地の喫茶店に、同じ席が空いていることを、そっと気にかけるマスターがいます。

社会的処方のために新しく育てなければならない担い手は、本当はそれほど多くないのかもしれません。

ケアの担い手は、もう街にいます。

足りないのは、新しい制度ではない

社会的処方と聞くと、専用の窓口や、新しい職種を思い浮かべがちです。

けれど、人の暮らしを気にかけ、さりげなく支えている人は、すでに地域のあちこちに、肩書きを持たないまま暮らしています。

足りないのは新しい制度ではなく、その人たちを担い手として見るまなざしと、その人と誰かのあいだに立つ、つなぎ手の存在なのだと思います。

図書館の司書

図書館は、お金を払わなくても一日いられる、数少ない場所です。

暖かくて、静かで、誰に咎められることもない。

そこに、いつも来る人の顔を覚え、変化に気づく司書がいます。健康や暮らしの相談に、そっと書架をひらいてくれる人もいます。本を貸すだけの人では、ありません。

銭湯の番台、喫茶店のマスター

銭湯には、肩書きを脱いだ常連と、その顔ぶれを知る番台の人がいます。

喫茶店のモーニングには、毎朝同じ席に座る人と、それを覚えているマスターがいます。

お寺の住職は、弔いと季節の行事を通して、地域の人生の節目に立ち会っています。公民館の世話役。趣味の会の仲間。手芸、合唱、将棋。そこには、互いの不在に気づきあう関係があります。

どの人も、「ケア」とは名乗っていません。けれど、確かに誰かを支えています。

見渡すと、もういる

ここまで挙げてきた人たちは、どこの街にもいます。

つまり、私たちの地域に担い手がいないのではなく、その人たちを担い手として見ていなかっただけ、なのかもしれません。

そう思って街を歩くと、風景が少し変わって見えます。あの司書も、あのマスターも、誰かの孤立にそっと手を届かせている、ケアの担い手なのだと。

つなぎ手として、小さく始める

最初の一歩は、大きな制度を立ち上げることではなく、自分の街の担い手を、いちど思い浮かべてみることかもしれません。

目の前の一人の暮らしに、この街のどの人を結べるか。

担い手と誰かのあいだに立つ——つなぎ手の役割は、特別な資格がなくても、今日から始められます。

では、そのつなぎ手を、現場で誰がどう担うのか。続きはこちらでも考えています。

社会的処方を「誰がつなぐか」 — 現場で動かすための実装ノート

この活動について → ケアと表現の研究室


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labsocial-prescribingcare-commons<![CDATA[ケアと表現の担い手とつなぎ手]]>https://paragraph.com/@smaller/candc NV2NPC3nqoehNwHKNn7yFri, 19 Jun 2026 21:00:00 GMT地域で暮らし続けることは、医療や介護サービスを受け続けることだけではありません。

年齢を重ねても、病気があっても、障害があっても、その人が住み慣れた場所で、自分の関係や役割を保ちながら生きていくこと。そこには、診察や処方、介護サービスだけでは支えきれないものがあります。

外に出る理由。

誰かに会う理由。

自分の経験を話す機会。

好きだった音楽や本やアートに触れる時間。

誰かの役に立つ小さな役割。

こうしたものが失われていくと、人は地域の中に暮らしていても、社会とのつながりを失っていきます。aging in placeを本当に支えるには、医療・介護に加えて、暮らしの意味や関係を支える仕組みが必要です。

このことを考えるきっかけのひとつになったのが、職業紹介責任者講習でした。

私は、職業紹介事業そのものに深く関わっているわけではありません。それでも、講習で扱われる個人情報の管理、苦情処理、労働条件の明示、ミスマッチの予防、求人者と求職者の関係調整といった内容は、単に「人を仕事に紹介する」ためだけの知識ではないと感じました。

むしろそれは、地域の中で人が安心して役割を持ち、無理なく関わり、誰かの暮らしを支え続けるための運営の知恵として読み替えることができます。

そこで考えたいのが、**ケアと表現の「担い手」と「つなぎ手」**という役割です。

医療と介護だけでは届きにくい領域

医療は病気を診ます。介護は生活を支えます。どちらも欠かせないものです。

一方で、その人が「何を楽しみに生きているのか」「何を続けたいのか」「何を残したいのか」「誰とつながっていたいのか」は、制度の中では見えにくいことがあります。

在宅医療や地域医療の現場では、医学的には安定し、介護サービスも入っているのに、本人の表情が乏しくなり、外出や会話の機会が減り、家族が疲れている場面に出会います。

ここに、ケアと表現の活動を置く意味があります。

音楽、読書、アート、語り、記録、外出、家族との対話。これらは医療行為ではありません。介護保険サービスそのものでもありません。それでも、本人の暮らしを支え、家族の負担を和らげ、地域との関係をつなぎ直す力を持っています。

「担い手」とは誰か

ケアと表現の担い手とは、地域の中で、誰かの暮らしにそっと関わる人です。

音楽を届ける人。

本を読む人。

話を聞く人。

散歩や外出に寄り添う人。

写真や記憶を一緒に整理する人。

家族の話を聞く人。

地域の場づくりを手伝う人。

担い手は、専門職だけではありません。高齢者も含まれます。退職者、介護経験者、表現者、学生、地域住民、元医療・介護職など、さまざまな人が担い手になり得ます。

大切なのは、「支援する人」と「支援される人」を固定しないことです。高齢者は支えられるだけの存在ではありません。地域の記憶、生活の知恵、介護経験、仕事の経験、人との関係性を持っています。それらは、地域ケアにとって大切な資源です。

「つなぎ手」とは誰か

担い手が善意だけで動くと、負担やリスクが個人に集中してしまいます。そこで必要になるのが、ケアと表現の「つなぎ手」です。

つなぎ手は、本人・家族・医療・介護・地域資源・担い手を結ぶ役割です。

本人の希望を聞く。

家族の負担を確認する。

医療的なリスクを把握する。

ケアと表現のプランを作る.

適切な担い手につなぐ。

活動後の変化を見守る。

無理が出たら調整する。

つなぎ手は、単に人を紹介する人ではありません。本人の暮らしと、地域の中にある小さな力を、無理のない形で結び直す人です。

医療が関わる意味

この仕組みに医療が関わる意味は大きいと思います。

外来や訪問診療では、孤立、フレイル、認知症初期、介護負担、退院後不安、看取り期の家族不安など、生活の破綻予兆に早く気づくことがあります。医療は、地域で起きている生活課題の入口になり得ます。

ただし、医療が多くを担う必要はありません。医療の役割は、 活動が安全に続くためのセーフティネット になることまで。

たとえば、心不全がある人なら長時間の外出は避ける。認知症がある人なら初回は家族やつなぎ手が同席する。転倒リスクが高い人なら屋外活動ではなく、室内での読書や音楽から始める。

こうした安全設計があることで、地域の担い手も安心して関わることができます。

職業紹介事業は、どこに関わるのか

ここで、冒頭の職業紹介責任者講習の話に戻ります。

この構想の中心は、職業紹介事業そのものではありません。中心にあるのは、ケアと表現のプランを作り、地域の担い手につなぐことです。

職業紹介事業が関わるとすれば、それは入口ではなく出口です。

地域の担い手が、一定の研修や経験を積み、希望すれば、医療機関、介護事業所、福祉施設、文化施設、自治体事業、NPOなどで有償の役割を持てるようにする。その出口を整えるところに、職業紹介事業の知識や仕組みを活かすことができます。

最初から「働く人」を集めるのではなく、まずは「関わる人」「手伝う人」「担う人」を増やす。そこから、有償で続けたい人には、適切な仕事や役割につながる道を用意する。これが自然だと思います。

担い手をワークにしない

担い手を最初からワーカーと呼ばないことも大切です。

ワークやワーカーという言葉は、責任、労働、役務提供の印象が強くなります。もちろん、有償の出口は必要です。しかし、この構想の入口は、もっと広く、やわらかいものでよいはずです。

地域の人が、いきなり仕事としてではなく、まずは関心を持ち、参加し、手伝い、少しずつ役割を持つ。そこから必要に応じて、有償の活動や雇用につながっていく。

その意味で、「担い手」と「つなぎ手」という言葉は、この構想に合っています。

担い手は、働く人である前に、地域に関わる人です。

つなぎ手は、紹介する人である前に、関係を整える人です。

事故対応と保険は、最初から設計する

地域の担い手が関わる以上、事故対応と保険は避けて通れません。

転倒、体調不良、物損、移動中の事故、家族とのトラブル、個人情報の取り扱い。これらを担い手個人に背負わせてはいけません。

まず、活動をリスク別に分けます。

低リスクの活動は、音楽、読書、会話、作品鑑賞、記録づくりなどです。

中リスク of 活動は、自宅訪問、短時間の散歩、家族不在時の見守りなどです。

高リスクの活動は、身体介助、服薬管理、食事介助、送迎、夜間対応などです。

初期段階では、高リスク活動は扱わないほうがよいでしょう。特に送迎は、自動車保険、道路運送法、事故責任が複雑になるため、慎重に扱う必要があります。

保険については、事業者側の賠償責任保険、担い手自身の傷害保険、活動内容に応じた福祉サービス向けの包括保険を検討します。あわせて、事故発生時の連絡体制、119番通報の基準、家族・主治医・事務局への連絡、事故報告書、再発防止の仕組みを整えます。

保険だけでは足りません。大切なのは、事故が起きにくい活動設計と、事故が起きたときに担い手個人を孤立させない運営体制です。

小さく始めるなら

最初は、独居、フレイル、認知症初期、退院後、家族介護負担が大きい人、看取り期にある人などを対象に、音楽、読書、会話、記録、家族同席の訪問から始めるのが現実的です。

担い手は、地域住民、高齢者、退職者、介護経験者、表現者などから募ります。つなぎ手は、本人や家族の希望を聞き、医療・介護の状況を踏まえて、無理のないケアと表現プランを作ります。

最初の目標は、大きな収益化ではありません。

本人の生活に小さな楽しみが戻ること。

家族の負担が少し軽くなること。

担い手が無理なく関われること。

地域の中に、新しい役割が生まれること。

この小さな実践を積み重ねることで、やがて研修、認証、有償活動、職業紹介、自治体連携へと展開できます。

これは地域の役割創出事業である

ケアと表現の担い手・つなぎ手は、単なるボランティア制度でも、単なる人材紹介でもありません。

医療が見つけた 生活課題を、地域の人の役割に変える仕組み です。

孤立を、関係に変える。

介護負担を、地域の分担に変える。

高齢者を、支援対象だけでなく担い手として位置づける。

表現活動を、余暇ではなく暮らしを支える力として扱う。

aging in placeを本当に支えるには、医療と介護だけでなく、地域の中に「関わる人」が必要です。

その人たちを、私は「担い手」と呼びたい。

そして、その担い手と本人の暮らしを結ぶ人を、「つなぎ手」と呼びたい。

ケアと表現の担い手・つなぎ手は、これからの地域に必要な、新しい役割の名前なのだと思います。

参考文献・参照資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html

地域包括ケアシステムを、「住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける」ための包括的な支援・サービス提供体制として説明している資料です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41379.html

介護職員の必要数について、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人とする推計が示されています。

https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/syoukai_gaiyou.html

職業紹介について、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と説明している資料です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shoukaibosyuukubun.html

求人情報・求職者情報の提供と職業紹介の区分、特定募集情報等提供事業の届出等について説明している資料です。

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/syoukai/dl/11.pdf

職業紹介責任者の役割、個人情報管理、求人・求職の受理、助言・指導、苦情処理などについて整理されている資料です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1.html

労働条件明示事項として、業務変更の範囲、就業場所変更の範囲、有期契約更新基準などが追加されたことを説明している資料です。

https://www.shakyo.or.jp/guide/hoken/index.html

ボランティア活動中の事故、社会福祉施設等の事業者事故など、福祉分野のリスクに備える保険制度について説明している資料です。

https://www.fukushihoken.co.jp/fukushi/front/council/volunteer_activities.html

ボランティア活動中のケガや、対人・対物の賠償責任補償について説明している資料です。

https://www.fukushihoken.co.jp/fukushi/front/council/welfare_service.html

福祉サービス提供に伴うケガの補償、賠償責任補償、個人賠償責任保険などについて説明している資料です。

https://www.nia.nih.gov/health/aging-place/aging-place-growing-older-home

aging in placeについて、高齢になっても自宅で暮らし続けることを中心に説明している資料です。

この活動について → ケアと表現の研究室


※この記事は AI共創型コンテンツ です。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labsocial-prescribingcreative-care<![CDATA[社会的処方を「誰がつなぐか」 — 現場で動かすための実装ノート]]>https://paragraph.com/@smaller/socialprescribing-who li7HBUnKosUjYADOwICwThu, 18 Jun 2026 13:27:10 GMT

前回の記事「 社会的処方は、日本の地域を含むケアをどう更新するか」では、社会的処方という世界的な潮流の輪郭を描き、日本のプライマリ・ケアがそこで果たしうる役割を考えました。

ありがたいことに、思いがけず多くの方が読んでくださいました。そして寄せられた声の多くが、ひとつの問いに集まっていました。

「では、誰が、どうやって動かすのか」。

総論としては美しい。ただ、それを現場で動かす段になると、とたんに足元が見えなくなる。本稿はその続きとして、総論から一歩だけ踏み込みます。社会的処方を「絵に描いた餅」で終わらせないために、 誰が地域資源をつなぐのか という実装の核心を、日本の文脈で具体的に考えてみたいと思います。

日本には「つなぐ人」がいない、という出発点

英国の社会的処方を象徴する存在が、 リンクワーカー(Link Worker) です。

診察室で「孤独」や「暮らしのなかの困りごと」を受け取り、患者と地域の活動や資源とのあいだを、時間をかけて丁寧に橋渡しする。英国モデルの実効性は、このつなぎ役が制度として位置づけられ、報酬の対象になっていることに、大きく支えられています。

しかし日本には、この役割を正面から担う公的な立場が、ほぼ存在しません。

これは弱点です。とはいえ、重要な出発点でもあります。リンクワーカーという「箱」をすぐには新設できないのなら、いま地域にいる 誰かが、その機能を分かち持つしかない からです。

ひとつの視点

「つなぐ」とは、パンフレットを手渡すことではありません。その人がなぜ動けないのかを聴き、最初の一歩に伴走し、その後の様子を気にかける——この連続したプロセスの全体が「つなぐ」という仕事です。そこを抜きにして制度の形だけを輸入すると、社会的処方は「紹介して終わり」に痩せてしまいます。

家庭医・看護・地域資源を、どう結ぶのか

リンクワーカーがいないことを前提にすると、つなぎ役は一人の専門職ではなく、 複数の役割の重なり として立ち上がります。

家庭医・プライマリ・ケアの診察室は 「気づきの入り口」 です。

継続的に同じ人を診ているからこそ、「最近、外に出ていない」「連れ合いをなくしてから元気がない」といった、検査値には表れないサインを最初に拾えます。気づきは、関係の蓄積からしか生まれません。

看護職・保健師は 「つなぎの働き」 を担える位置にいます。

訪問看護、地域包括支援センター、外来看護——暮らしの不安にもっとも近く、伴走の専門性をすでに持っている人たちです。社会的処方の実装で鍵になるのは、この層が「つなぐ役割」を正式な業務として位置づけられ、評価されるかどうかだと思います。善意の延長線上に置いたままでは、続きません。

地域資源の側にも 「受け手」 が必要です。

サロン、図書館、趣味の集まり、宗教的な場。つなぐ意図があっても、迎える側に余白がなければ、橋は架かりません。資源を「つくる」より先に、すでにある場を「見つけ、関係を結んでおく」ことのほうが、たいていは現実的です。

小さな場面から

抽象論を、ひとつのシーンに落としてみます。

ある外来に、半年前に妻を亡くした80代の男性が、血圧の薬をもらいに来る。会話は少なく、「変わりないです」と言って帰っていく。

家庭医はその「変わりない」に、小さな違和感を覚える。そして、同じ法人の地域看護職に一声かける。看護職が後日、近所の囲碁サロンの話を持って、一度だけ一緒に足を運ぶ。

それだけのことです。

特別な制度も、新しい予算も使っていません。使ったのは、診察室の気づき・看護職の同行・地域資源の受け皿という、すでにそこにあった三つを、意図して結んだことだけです。

社会的処方の実装とは、新しい制度を待つことではなく、いまある 手と手のあいだに、つなぐという意図をそっと置くこと から始まるのだと思います。

次に考えたいこと

もちろん、これで終わりではありません。

「意図して結ぶ」を、個人の熱意や偶然に頼るのではなく、どう仕組みとして支えるのか。そして、その小さな実践が本当に人の暮らしを変えているのかを、どう確かめるのか。

担い手をどう評価し、効果をどうデータで検証していくか を考えてみたいと思います。急がず、しかし確かめながら。


※本稿は「 社会的処方は、日本の地域を含むケアをどう更新するか」の続編として構成した記事です。

※この記事はAI共創型コンテンツです。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labsocial-prescribingcreative-care<![CDATA[「残す」と「消える」のあいだで]]>https://paragraph.com/@smaller/dn19 rcyjUtMNxaA9UBu8nx2bTue, 16 Jun 2026 15:39:03 GMTこの数週間のDirector Noteは、振り返ってみると、どれも同じひとつの問いをめぐっていました。

記録は、何を残し、何を取りこぼすのか。

「残す」と「消える」のあいだで揺れた四つの場面を、急がず、少しずつ、置き直してみます。

説明を削って、場面を残す(#15)

在宅で療養していた方のそばで、ご家族が昔よく聴いていた音楽を、小さな音で流しました。その方の指先が、ほんの少しだけ動いたように見えました。

この一瞬を「音楽療法の効果」として説明することもできます。でも、ビネットとして残したいのは、意味が確定する手前の、その場の温度のほうでした。

説明を削る。断言を避ける。わからなさを、わからなさのまま置いておく。ビネット化とは、出来事を大きな意味に回収するのではなく、意味を少し小さくして、場面として残し直す作業なのだと思います。

古い夢を読む、記憶を残す(#16)

村上春樹の小説には、図書館で「古い夢」を読み取る仕事が登場します。声を失い、かたちをなくしかけたものに、耳を澄まし、手を触れる。

私たちの暮らしの中にも、語られなかった思いや、言葉にならなかった記憶があります。人が生きてきた証は、履歴書や正式な記録の中だけではなく、消えていく小さな場面の中に宿っているのではないでしょうか。

忘れられないために残すのではなく、その人が確かに生きていたことを、もう一度誰かが受け取れるように残すこと。それが、ここで考えたいことでした。

小さな記憶を収蔵すること(#17)

残すという営みは、制作で終わるものではありません。残されたものが誰かに読み返されるところから、もう一度始まります。

立派な本でなくてもいいのだと思います。薄い、小さな冊子でいい。少しの言葉、いくつかの場面、声の断片、家族の記憶を、過剰に説明せずそっと置いておく。

記憶は、開かれることだけに価値があるのではありません。守られていることそのものが、価値になることがあります。読むことが、ひとつのケアになり、静かな弔いになる——そんな器のことを考えていました。

消えていく音、残っていくかたち(#18)

岡﨑乾二郎さんの個展で、ひとつのタイトルに立ち止まりました。

「おんがくはね通りすぎたら空に消えるさ」

音楽は、鳴った瞬間から過ぎ去っていきます。アート作品は物質として残りますが、残ることは意味が保存されることではありません。繰り返し読み直され、誤読され、更新されていきます。

残存とは、保存ではなく、変容の条件なのかもしれません。記録するという行為は、あるものを残すと同時に、別の何かを取りこぼします。それでも、何も残さないのではなく、何かをかたちにしてみたいのだと思います。


四つの場面に共通しているのは、ひとつの態度でした。

すべては残せない。それを認めたうえで、消えていくものの痕跡に、そっと触れる形式を探すこと。

その続きを、Evidence of Life で書いています。今日はリンクをひとつだけ。最新のDirector Note #18 から、ゆっくり読んでみてください。

👉 Director Note #18「消えていく音、残っていくかたち」を読む


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]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)evidence-of-lifedirector-note<![CDATA[Small Medicine の歩き方]]>https://paragraph.com/@smaller/newsletter9 unqxzKpXrLlBy2OugCd5Sat, 13 Jun 2026 12:32:33 GMT🤖この記事はAIがほぼ作成しています。

この場所には、いま3つの活動が並走しています。

  1. 地域医療を言葉にする Small Medicine (小さな医療、情報発信の編集室)

  2. 記憶と語りを収蔵する Evidence of Life (新プロジェクト)

  3. 音楽・アート・対話・社会的処方からケアを問い直す ケアと表現の研究室 (新企画)

どれも根は同じところにあるのですが、初めて訪れた方には、どこから読めばいいのか分かりにくいかもしれません。この記事は、その入口を一枚の地図にまとめたものです。気になった部屋の入口から、好きに歩いてください。

なぜ、複数の活動が並走しているのか

「地域医療」をまっすぐ書こうとすると、いつのまにか問いが枝分かれしていきます。制度や実践の話だけでは掬いきれない、ひとつひとつの場面。その場面を残そうとする方法論。そして、ケアそのものを医療の外側へ開いていく試み。

ひとつの器に押し込めるより、それぞれに名前を与えて並べたほうが、かえって見通しがよくなる。そう考えて、3つの部屋に分けています。以下は、それぞれの部屋の入口です。

① Small Medicine — 地域医療・家庭医療の編集室

エビデンスに基づく地域医療の実践と、その周辺で起きていること、そしてケアのコモンズ論を言葉にして残しています。

② Evidence of Life — 記憶を、かたちに

人が生きてきた時間を、記憶のかたちにするプロジェクトです。ひとつの場面を、説明を削ることで残す「ビネット」という記述のかたちと、その方法論(事例研究)を探求しています。 制作の過程を記録する編集ノート は、 Director Note として公開しています。

③ ケアと表現の研究室 — 音楽・アート・対話・社会的処方

ケアを、医療 of 枠の外へ。音楽・アート・ことば・対話、そして「社会的処方」を通じて人と地域をそっとつなぐ、新しいケアのかたちを探っているプロジェクトです。企画の主な発信は本サイトのほか、 noteMOSH も拠点にしています。

どこを追えばいいか

最後に、全体をまとめておきます。

迷ったら、また地図に戻ってきてください。どの入口から入っても、結局は同じ問い——「小さく、ていねいに、ケアを言葉にする」——につながっています。


※この記事はAI共創型コンテンツです。

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]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)small-medicinetinyeditorialnewsletter<![CDATA[消えていく音、残っていくかたち]]>https://paragraph.com/@smaller/dn18 OUAn6MiD0THcYWdlXomgSat, 13 Jun 2026 09:46:15 GMT

岡﨑乾二郎さんの個展「New works 54」を見に行きました。

[Kenjiro Okazaki|New works 54 | Takuro Someya Contemporary Art / TSCA \ \ Past Exhibition 25 April - 6 June, 2026 Venue : 1: Takuro Someya Contemporary Art 2: BONDED GALLERY Takuro Someya Contemporary Art is pleased to announce the upcoming solo exhibition New works 54 by Kenjiro Okazaki. [Exhibition Details] Kenjiro Okazaki|New works 54 Exhibition Period: Saturday, April 25, 2026 - Saturday, June 6, 2026 Reception: April 25, 3:00 p.m.\ \ https://tsca.jp\\ \

色彩豊かな小さな作品が並び、それぞれの画面の中に、さまざまな像が立ち上がってくるように感じました。風景のようでもあり、身体の一部のようでもあり、記憶の断片のようでもある。何かに見えたと思った瞬間、その像はまた別のものへと移っていきます。作品を見るという行為は、対象を確認することではなく、像が生成し、変容し、消えていく過程に立ち会うことなのだと感じました。

会場では作品タイトルは掲示されておらず、まずは自分の視線と記憶だけで作品に向き合うことになりました。何に見えるのか、なぜそう見えてしまうのか。作品を「読む」前に、自分の知覚が揺さぶられる時間がありました。あとから作品集でタイトルを知ると、自分の見立てと言葉とのあいだに距離が生まれます。その距離は、アート作品が単一の意味に閉じないことを示す、もうひとつの入口のように感じられました。

その中で、ひとつ強く引っかかったタイトルがありました。

「おんがくはね通りすぎたら空に消えるさ」

音楽は、時間の中でしか存在できません。鳴った瞬間から、すでに過ぎ去っていく。録音はできます。楽譜も残ります。それでも、その場に生じた響き、空気、身体感覚、沈黙、聴いていた人の内側に起きた微細な変化までは、同じかたちでは保存できません。

一方で、アート作品は物質として残ります。キャンバスや紙や立体として、後世に手渡されていく。ただし、作品が残ることは、意味がそのまま保存されることではありません。作品は作者の手を離れ、別の時代に置かれ、別の人のまなざしにさらされます。残るものは固定されるのではなく、繰り返し解釈され、誤読され、更新されていきます。

音楽は消えるからこそ、その場に深く刻まれる。

アート作品は残るからこそ、時間の中で変わり続ける。

残存とは、保存ではなく、変容の条件なのかもしれません。

Evidence of Life で考えている「生きてきた証」も、この問題とつながっています。

人の声、しぐさ、沈黙、暮らしの手触りは、そのままでは失われていきます。記録しようとしても、すべては残せません。記録するという行為は、あるものを残すと同時に、別の何かを取りこぼす行為でもあります。

それでも、何も残さないのではなく、何かをかたちにしてみる。

それは、人生を完全に保存することではありません。過ぎ去った時間を所有し直すことでもありません。消えていくものが消えていくことを認めながら、その痕跡に触れるための形式を探すことなのだと思います。

ずっと残っていくものは何だろう。

作品なのか。記録なのか。名前なのか。誰かの記憶なのか。あるいは、それらのどれでもなく、誰かの中で一度だけ生じた感覚なのか。

まだ答えはありません。

ただ、残るものと消えるもののあいだに、人が生きた痕跡はあります。Evidence of Life は、そのあわいに、ひとつの小さな形式を置いていく試みなのかもしれません。

出典

Kenjiro Okazaki, おんがくはね通りすぎたら空に消えるさ/Marsyas–Eric Dolphy/Why do you tear me from myself? 2026, Acrylic on canvas, (H)16.7 x (W)20.5 cm ©︎ Kenjiro Okazaki, Courtesy of the artist and Takuro Someya Contemporary Art, Photo by Shu Nakagawa


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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)evidence-of-lifedirector-note<![CDATA[社会的処方は、日本の地域包括ケアをどう更新するか]]>https://paragraph.com/@smaller/socialprescribing BTzd5EycZBg0pe9MhCmASun, 31 May 2026 10:54:04 GMT私たちは今、「健康」という概念の歴史的な転換点に立ち会っているのではないでしょうか。従来の身体的、あるいは精神的なウェルビーイングという枠組みを超え、人と人との「社会的つながり」そのものが、個人の生命や尊厳を支える不可欠なインフラとして再定義され始めています。本稿では、世界的な潮流である「 社会的処方(Social Prescribing)」の現在地を見つめ、日本のプライマリ・ケアが果たすべき役割と未来への期待について論じたいと思います。

パラダイムの移行と「社会的孤立」という静かな病

医療や保健の歴史を振り返ると、その焦点は時代とともに深化してきました。伝統的に医療セクターが厳密に管理してきた「身体的ウェルビーイング」の時代があり、次いで私たちは「精神的ウェルビーイング」の重要性に気づき、そのケアを求めるようになりました。そして今、パンデミックという未曾有の経験を経て、私たちが直面しているのが 「社会的ウェルビーイング」の危機 です。

新型コロナウイルス感染症に伴うソーシャルディスタンスの確保は、私たちの社会に伏在していた 「社会的孤立」 の本質を鮮烈に浮き彫りにしました。それは単に「一人でいること」の寂しさではありません。 社会的なつながりの断絶が、個人の精神を蝕み、身体的な疾患のリスクを高めるという、明確な健康上の課題 です。世界保健機関(WHO)が「社会的つながりに関する委員会」を発足させ、グローバルな政策構築へと舵を切った事実は、この問題がもたらす危機の大きさを雄弁に物語っています。

医療の限界とセクター横断的なアプローチ

しかし、ここで重要なのは、この 社会的孤立という「病」には、従来の医療セクター単独では決して処方箋を書けない という事実です。どれほど優れた医師が診察室で患者の話を聞いたとしても、その患者が社会活動の場へとアクセスするための「交通手段」がなければ、あるいは孤独を深め、人々を孤立させるような「住環境」に縛り付けられているならば、根本的な解決には至りません。

議論の視点

社会的つながりとは、単なるコミュニティへの形式的な所属を意味するものではありません。それは人と人との「意味のあるつながり」であり、個人の尊厳や、コミュニティのアイデンティティそのものを形作るものです。

それゆえに、社会的処方の本質は、 医療の枠組みを飛び越えた「クロスセクター」かつ「水平的」なコラボレーション にあります。住宅、交通、文化、芸術、スポーツ――生活環境を構成するあらゆる部門が「健康の創造」という共通の目的に向かって民主化され、有機的に結びつく必要があるのです。映画館のチケット一枚、美術館への訪問、スポーツスタジアムでの小さな交流が、個人の孤立を癒やす一助となり得る世界。診察室の壁を壊し、病院の境界を再配線することこそが、今求められています。

英国から見えてきた実践的価値と、直輸入しない賢明さ

社会的処方の先駆者である英国には、長年のスタッフ配置の問題やコスト削減の文脈から生まれた独自の「レシピ」が存在します。この先進的な取り組みは、日本からも熱い視線を集めています。実際、日本の省庁からの委託により、若者のメンタルヘルスや自殺率といった深刻な課題に対し、社会的処方の観点から解決の糸口を探るべく、イギリスでの視察が行われました。

また、こうした議論のなかで、現場や社会システムにもたらされる「実践的なメリット」についても重要な視点が共有されています。例えばコストや医療資源の観点では、単に「診察件数がどれだけ減ったか」を定量化するよりも、「社会的処方によって 医師一人あたりにどれだけの自由な時間が生まれるか」を評価するアプローチが有効です。医師に時間的なゆとりが生まれれば、より多くの患者を受け入れ、真に必要な処置に専念できるという多大なメリットが生み出されます。 さらに、医師レベルだけでなく、保険会社の視点に立てば別の価値も見えてきます。社会的処方によって個人の抱える課題を減らし、結果として心血管疾患や糖尿病などの慢性疾患を予防できれば、それは 保険全体のコスト削減 に直結します。このため、日本の保険会社もまた、独自にイギリスへの視察を実施し、その可能性を探求しているのです。

しかし、こうした英国の成功モデル――例えるなら彼らにとっての完成された「フィッシュ・アンド・チップス」のような最適解――を、日本にそのままコピー&ペーストしたところで、豊かな実を結ぶことはありません。日本には特有の「ハイコンテクスト文化」があり、例えば高齢男性の孤立という課題においては、彼らが自らの状況を変えたり新しい機会に飛び込んだりすることに消極的になりがちです。役割や肩書きといった 文化的背景に配慮した、きめ細やかな適応(ローカライズ)が不可欠 となるのです。

主体性とコレクティブ・パワーの動員

文化的背景の違いは、孤独の経験そのものの違いにも繋がっています。だからこそ、特定のモデルを上から押し付けるのではなく、地域住民が自発的に関わりたいと思えるような、文化的に繊細で適切な活動へと巻き込んでいくプロセスが重要です。

近隣レベルでの孤立に対処するためには、コミュニティそのものにエンパワーメントを施し、共同で仕組みを作り上げる 「集団の力(コレクティブ・パワー)」 が鍵を握ります。日本には 「主体性(shutaisei)」 という美しい概念があります。同じような境遇やグループに属する人々が、共通のアイデンティティのもとでつながり、自発的に動き出す力を動員すること。この内発的なつながりの力こそが、社会的処方を真に機能させるエンジンとなるのではないでしょうか。

日本の先進性とプライマリ・ケアの未来への提言

社会的処方の実装には、厳密な科学的アプローチが必要です。変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)を掲げ、地域のニーズと強みを定量・定性の両軸から把握し、データを集めて初期の仮説を絶え間なく検証していく。それは一朝一夕には成し遂げられない、粘り強いプロセスとなります。

しかし、私たちは決して悲観する必要はありません。むしろ誇りを持つべきです。なぜなら日本は、「社会的処方」という現代的な言葉を使ってこなかっただけで、世界に先駆けてその思想を具現化してきた国だからです。他国が羨望の眼差しを向け、模倣しようと試みている 「地域包括ケアシステム」こそは、地域全体で人を支える、極めて先進的な社会的処方の土台そのもの に他なりません。

日本のプライマリ・ケアに今期待されるのは、この既存の優れた包括的ケアのインフラに、「社会的処方」という新たなレンズを通して、より高い解像度と有機的なつながりを与えることです。医療と福祉、そして地域住民の「主体性」がシームレスに融合したとき、日本のプライマリ・ケアは、単なる病気管理の場から「豊かな生き方とつながりを処方する場」へと、真の進化を遂げるに違いありません。それこそが、超高齢社会を生きる私たちが世界に示すことのできる、最も輝かしい未来の形であると確信しています。


※本稿は、第17回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会「Social Prescribing: Current Global Trends and Expectations for Primary Care in Japan. 社会的処方:世界に広がる現状と日本のプライマリ・ケアへの期待」(2026.5.31、京都)のパネルディスカッションの議論をもとに構成した記事です。


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コンテンツ生成・推敲:Gemini 3.1 Pro

■ bycomet

医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

]]>smaller@newsletter.paragraph.com (bycomet)care-expression-labsocial-prescribingcreative-care<![CDATA[地域に、ケアの仕事をつくる]]>https://paragraph.com/@smaller/creativecare TlzjfXBev3IXfysKLgevThu, 28 May 2026 14:05:17 GMT

ケアは、日常のすぐそばにある

地域で暮らしていると、ケアは特別な場所にだけあるものではないと感じます。

誰かの話を少し聴く。

帰り道を少し一緒に歩く。

お茶を出す。

椅子を並べる。

昔の記憶を一緒に思い出す。

家族の不安を、急がずに受け止める。

そうした小さな関わりの中にも、ケアはあります。

医療や介護の制度は、もちろん大切です。

専門職の力も欠かせません。

同時に、地域で暮らし続けるためには、制度の外側やすき間にある 小さな支え も必要になります。

家族の不安を聴く人。

外出に付き添う人。

記憶を残す人。

音楽やアートをケアの場に持ち込む人。

医療と介護のあいだを整理する人。

いまはまだ、名前のついていない仕事があります。

家族の無償労働や、専門職の善意の中に埋もれている仕事があります。

そこに 名前をつけ、学びを整え、地域の仕事として育てていく。

それが、Small Medicineで取り組みたいことです。

入口は、楽しむこと

最初から「ケアを担いましょう」と言うと、少し重くなります。

だから、入口はもっと楽しくてよいと思います。

音楽を聴く。

お茶を飲む。

一緒に歩く。

映画を観る。

本を読む。

誰かの話を少し聴く。

楽しそうだから来てみる。

居心地がよいから、また来る。

そのくらいの軽さの中で、人は地域とつながっていくのだと思います。

まずは、同じ時間を過ごす場所をつくる。

表現にふれながら、人が集まり、 少しずつ関係が生まれる場をつくる。

そこから、 ケアに関わる入口 をひらいていきたいのです。

小さな手伝いが生まれる

場が続くと、自然に 小さな手伝い が生まれます。

椅子を並べる。

お茶を出す。

受付をする。

隣に座る。

帰り道を少し一緒に歩く。

写真を撮る。

それは、ボランティアというほど大げさではありません。

仕事というほど構えたものでもありません。

その 小さな手伝い によって、誰かが安心します。

場が続きます。

関係が生まれます。

ここに、ケア人材育成の最初の入口があります。

手伝うから、学びたくなる

小さな手伝いをしてみると、ただ参加しているだけでは見えなかったことが見えてきます。

自分にできること。

少し不安なこと。

もっと知りたいこと。

専門職につなぐべきこと。

その気づきが、学びにつながります。

認知症の人とどう関わるか。

家族の不安をどう聴くか。

個人情報をどう守るか。

どこから医療や介護につなぐべきか。

音楽やアートを、どのようにケアの場に持ち込むか。

善意だけでは続かないことがあります。

思いだけでは危ういこともあります。

だから、学びが必要になります。

小さな手伝いを、安全で、楽しく、続けられる実践に変えていく。

そのための学びを、地域の中につくっていきたいのです。

ケアと表現の研究室 という、ひとつの取り組みがはじまります。

ケアと表現の研究室は、 音楽やアート、ことばや対話を通じて、 医療・介護・地域にひらかれた 「あたらしいケアのかたち」を探究する学びと実践の場です。

[ケアと表現の研究室|note \ \ ケアと表現の研究室は、音楽やアート、ことばや対話を通じて、医療・介護・地域にひらかれた「あたらしいケアのかたち」を探究する学びと実践の場です。 https://mosh.jp/care\_expression\_lab/profile\\ \ https://note.com\\ \

やがて、仕事になる

楽しむ。

小さな手伝いをする。

学ぶ。

その先に、 働くこと があります。

ここでいう働くとは、必ずしも大きな仕事ではありません。

地域の中で、少し有償の役割を持つことです。

外出に付き添う。

家族に近況を伝える。

高齢者の語りを聞き書きする。

音楽やアートのある場をつくる。

在宅療養中の人の記憶を残す。

医療行為でも、介護保険サービスそのものでもない。

それでも、地域で暮らし続けるために確かに必要な仕事。

そうした仕事を、地域の中に育てていきたいのです。

残すことで、文化になる

そして、Small Medicineにとって欠かせないのが、残すことです。

楽しんだ時間を残す。

小さな手伝いの中で生まれた気づきを残す。

学びの過程を残す。

働く中で得られた実践知を残す。

その人が生きてきた証を残す。

ここに、 Evidence of Life がつながります。

Evidence of Lifeは、医療記録には残らないものを残す試みです。

制度の書類には書かれないものを、言葉や写真や小冊子として残していく試みです。

声。

表情。

沈黙。

暮らしの手触り。

家族との時間。

誰かがそっと手伝った場面。

残すことで、ケアは一過性のサービスではなくなります。

経験は学びになり、学びは方法論になり、方法論は次の人材育成につながります。

そして、 人生の記憶は、地域の文化になります。

Evidence of Life という構想は、準備を進めています。

Small Medicineでは、Director Noteで情報発信中です。

[Evidenceoflife - Small Medicine \ \ Produced by 地域医療ジャーナル\ \ https://paragraph.com\\ \

Small Medicineが目指す循環

楽しむことで、人が集まる。

小さな手伝いで、ケアに関わる。

学ぶことで、安全な実践になる。

働くことで、地域の仕事になる。

残すことで、文化になる。

この循環を、音楽やアート、語りや記録といった表現の力を借りながら、地域の中に育てていきたいと思います。

ケアを、専門職だけの負担にしない。

家族だけの責任にしない。

暗く重たいものだけにしない。

助けあい、支えあい、持ちつ持たれつ。

楽しく下り坂を謳歌する。

そんな 地域のケア文化と、そこから生まれる新しい仕事 を、Small Medicineから少しずつ形にしていきたいと思います。


※この記事は AI共創型コンテンツ です。

※この記事は Small Medicine - Substack にも掲載しています。

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医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。

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