日本で優先して減らすべき低価値医療 — Small Medicine
医療には、患者に大きな利益をもたらす診療がある一方で、利益がほとんどない、あるいは利益よりも害や負担が上回る診療もあります。このような医療は「低価値医療」と呼ばれます。
低価値医療は、単なる無駄遣いではありません。不要な検査の偽陽性から追加検査や治療が始まったり、効果の乏しい薬によって有害事象が生じたりする可能性があります。医療者の時間や設備も消費し、本当に必要な患者へ振り向けるべき資源が失われます。
日本のプライマリ・ケア医1019人、患者約254万人を対象とした研究では、10種類の低価値医療が、年間患者100人当たり17.2件提供されていました。また、日本の約192万人を対象に52種類の低価値医療を調べた別の研究では、対象者の3分の1以上が1年間に少なくとも1件を受け、その費用は総医療費の0.7~1.0%と推計されています。(JAMA Network)
注目すべきなのは、低価値医療の大部分が、極端に高額な医療ではなく、比較的安価な医療が大量に繰り返されることで生じていた点です。一件当たりの費用だけではなく、頻度を含めて考える必要があります。
では、日本で低価値医療を減らすとすれば、どの診療から優先すべきでしょうか。
低価値医療の優先順位をどう決めるか
本稿では、候補となる診療を次の五つの要素で評価します。
頻度 × 患者への害 × 費用 × 測定可能性 × 改善可能性
それぞれを相対的に1~5点で評価し、掛け合わせた値を暫定的な優先度指数とします。
ただし、これは科学的な妥当性が検証された評価尺度ではありません。専門家や患者代表による議論を始めるための、仮の優先順位です。
また、点数を付ける前に、次の「エビデンス確実性ゲート」を通過させる必要があります。
- 対象となる患者や臨床状況を明確に定義できる
- 利益が乏しいことを支持する比較的確実な根拠がある
- 正当な適応や例外を定義できる
- 中止後の代替診療や安全網を提示できる
- 日本の疫学や診療実態に適用できる
単に費用が高いことや、医療機関によって実施率が異なることだけでは、低価値医療とは判断できません。
暫定的な優先順位
- 合併症のない急性気道感染症への抗菌薬: 1875点
- 非神経障害性腰痛へのプレガバリン: 1600点
- 赤旗所見のない急性腰痛への早期画像検査: 1600点
- 神経根症のない腰痛への注射療法: 1280点
- 低リスク手術前の定型的検査・負荷検査: 900点
- 急性気道感染症へのコデイン: 800点
- 赤旗所見のない頭痛への画像検査: 576点
- 短期間の反復骨密度検査: 480点
- 骨粗鬆症性椎体骨折への定型的な経皮的椎体形成術: 360点
- 警告症状のない若年者への消化管内視鏡: 216点
以下、それぞれを具体的に検討します。
1.合併症のない急性気道感染症への抗菌薬
最も優先度が高い候補は、感冒、非細菌性咽頭炎、百日咳を除く急性気管支炎などに対する抗菌薬です。
肺炎、細菌性副鼻腔炎、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、中耳炎、慢性呼吸器疾患の細菌性増悪など、抗菌薬が必要な病態は除外しなければなりません。
日本のプライマリ・ケア研究では、急性気道感染症患者の20.1%が少なくとも一度抗菌薬を処方されていました。測定された低価値医療の中でも、特に件数の多い診療です。(JAMA Network)
厚生労働省の2026年版「抗微生物薬適正使用の手引き」でも、基礎疾患や合併症のない急性気管支炎について、百日咳を除き抗菌薬を投与しないことが推奨されています。(厚生労働省)
抗菌薬の不必要な使用は、下痢、アレルギー反応、Clostridioides difficile感染症などの患者個人への害に加え、薬剤耐性菌を選択するという社会全体への害をもたらします。
一方、適切な代替診療は明確です。肺炎などの除外、自然経過の説明、症状緩和、悪化時の再診基準を組み合わせることで、安全に減らしやすい低価値医療です。
2.非神経障害性腰痛へのプレガバリン
プレガバリンは神経障害性疼痛には使用されますが、神経障害性疼痛ではない通常の腰痛に対する有効性は支持されていません。
対象を定義する際には、糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、明確な神経根障害など、正当な適応を除外する必要があります。
NICEは、通常の腰痛に対してガバペンチノイドを使用しないよう推奨しています。また、坐骨神経痛患者を対象としたランダム化比較試験でも、プレガバリンは下肢痛やその他の転帰を改善せず、有害事象が多く認められました。(New England Journal of Medicine)
厚生労働省も2025年、神経障害性疼痛を除く腰痛へのプレガバリン処方を「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」に位置づけました。(厚生労働省)
めまい、傾眠、浮腫、転倒などの有害事象があり、とくに高齢者では注意が必要です。薬剤名と適応病名を比較的明確に区別でき、運動、活動維持、患者教育などの代替策もあるため、改善可能性の高い候補です。
3.赤旗所見のない急性腰痛への早期画像検査
急性腰痛患者にMRIやCTを実施しても、それだけで低価値医療になるわけではありません。
外傷、悪性腫瘍、感染症、骨折、進行する神経障害、馬尾症候群などが疑われる場合には、早期画像検査が必要です。
問題となるのは、こうした赤旗所見がなく、画像結果が診療方針を変えないにもかかわらず行われる定型的な検査です。
NICEは、非専門医療の場では腰痛患者に画像検査を定型的に行わず、専門医療でも結果が治療方針を変える場合に限って検討するよう推奨しています。(NICE)
不要な画像検査には、費用だけでなく、偶発所見から追加検査が始まる、加齢性変化を病気として認識してしまう、不安が増える、侵襲的治療につながる、といった問題があります。
ただし、赤旗所見の有無は診察によって判断されます。したがって、単純に「腰痛に画像検査を行った」というだけで低価値とは評価できません。適応の定義には臨床情報が不可欠です。
4.神経根症のない腰痛への注射療法
神経根症や坐骨神経痛を伴わない通常の腰痛に対する、硬膜外注射や各種脊椎注射も候補になります。
日本のプライマリ・ケア研究では、神経根症を伴わない腰痛に対する注射療法は、腰痛患者100人当たり25.3件と高頻度でした。(JAMA Network)
NICEは通常の腰痛に脊椎注射を行わないよう推奨しています。2025年のBMJ臨床ガイドラインでも、慢性非がん性脊椎痛に対する多くの注射・介入手技は、偽処置と比べて重要な利益を示さないと評価されています。(NICE)
一方で、急性かつ重度の坐骨神経痛に対する硬膜外注射、特定の局所筋痛に対する注射、診断的ブロックなどは区別しなければなりません。
「腰痛への注射」を一括して否定するのではなく、対象病態、手技、治療目的を限定して評価する必要があります。
5.低リスク手術前の定型的検査・負荷検査
低リスク手術を受ける患者に、診療方針を変えないまま行われる定型的な検査も、重要な候補です。
具体的には、臨床的な必要性がないにもかかわらず一律に行われる血液検査、胸部X線、心電図、心エコー、負荷心電図、心筋シンチなどが該当します。
2024年のACC/AHA周術期ガイドラインは、心血管イベントの危険が低い患者、良好な運動耐容能を持つ患者、低リスク手術を受ける患者には、定型的な負荷検査を行わないよう推奨しています。(American College of Cardiology)
白内障手術については、2万件を超える手術を含むCochraneレビューで、定型的な術前検査を行っても周術期の医学的有害事象は減少しませんでした。(コクラン)
術前検査そのものが悪いのではなく、患者の病歴、予定手術、麻酔方法、検査結果が診療方針に与える影響を考慮せず、一律に行うことが問題です。
6.急性気道感染症へのコデイン
急性の咳に対するコデインも、比較的測定しやすく、改善可能性の高い候補です。
日本のプライマリ・ケア研究では、急性気道感染症患者の8.4%にコデインが処方されていました。(JAMA Network)
NICEのエビデンスレビューでは、急性咳嗽に対するコデインは、咳症状を改善する利益を示さないと結論づけられています。(NICE)
利益が認められない状況では、傾眠、便秘、悪心、転倒、呼吸抑制といったオピオイドの有害作用が純粋な不利益になります。
ただし、がん疼痛、慢性疼痛など、別の適応で使用されている患者は除外する必要があります。
7.赤旗所見のない頭痛への画像検査
頭痛に対する画像検査も、臨床状況を限定すれば低価値医療の候補になります。
電撃性発症、神経脱落所見、発熱、がん、免疫不全、妊娠・産褥期の新規頭痛、50歳以降の新規発症、頭蓋内圧亢進を疑う所見などがあれば、画像検査が必要になることがあります。
一方、こうした赤旗所見がなく、典型的な一次性頭痛が考えられる場合には、定型的な画像検査の診断価値は低くなります。
ACR Appropriateness Criteriaでは、突然発症などの赤旗所見がない頭痛に対する初回画像検査の多くが「通常は不適切」と評価されています。(ACR Search)
ただし、頭痛の発症様式や神経学的所見は診察によって評価されます。この項目も、画像検査の実施だけで一律に低価値と判断することはできません。
8.短期間の反復骨密度検査
短期間に繰り返される骨密度検査も候補になります。
日本のプライマリ・ケア研究では、骨密度検査を受けた患者の12.4%に短期間の反復検査が確認されました。(JAMA Network)
USPSTFは、スクリーニングとして骨密度検査を4~8年間隔で繰り返しても、骨折予測精度の上乗せが認められないとしています。測定誤差もあるため、短期間の変化を過度に解釈することには限界があります。(アメリカ合衆国予防サービス作業部会)
ただし、これはスクリーニングに関するエビデンスです。治療中の患者、急速な骨量減少が予想される病態、測定上の問題があった場合などには、より短い間隔で検査することがあります。
したがって、まずは「同一年度内の3回目以降」など、明らかに頻回な検査から評価するのが妥当です。
9.骨粗鬆症性椎体骨折への定型的な経皮的椎体形成術
経皮的椎体形成術は、骨粗鬆症による椎体骨折に骨セメントを注入する治療です。
一件当たりの費用が高く、侵襲性もあるため、件数が少なくても優先的に検討すべき候補になり得ます。
Cochraneレビューでは、骨粗鬆症性椎体骨折への椎体形成術は、偽処置と比べて疼痛や機能に臨床的に重要な利益をもたらさないという結果が示されています。(コクラン)
一方で、極めて急性期の骨折、MRI所見と疼痛部位が一致する患者、保存的治療で改善しない重症例など、選択された患者では利益がある可能性を主張する研究や専門家もいます。
したがって、「椎体形成術はすべて低価値」とするのではなく、骨折時期、画像所見、疼痛の程度、保存治療への反応を含めた適応の精緻化が必要です。
10.警告症状のない若年者への消化管内視鏡
若年者の単純なディスペプシアや便秘に対する内視鏡検査も、候補になり得ます。
海外の研究では、60歳未満で体重減少、出血、貧血、嚥下障害、持続性嘔吐などの警告症状がないディスペプシア患者では、上部消化管内視鏡による重要病変の検出率は非常に低いとされています。(PubMed)
海外のガイドラインでは、低リスク患者には、まずHelicobacter pyloriの非侵襲的検査や薬物治療を行い、内視鏡を選択的に実施する方針が採られています。(ACG CDN)
ただし、日本は欧米より胃がんやH. pylori感染の疫学が異なります。また、検診として行われる内視鏡と、症状の精査として行われる内視鏡は区別しなければなりません。
そのため、この項目を日本で優先的な削減対象とするには、日本人に適した年齢基準、警告症状、家族歴、既往歴、再検査間隔を先に定める必要があります。
低価値医療は診療行為の名前だけでは決まらない
今回挙げた13項目には、共通する注意点があります。
「抗菌薬」「MRI」「内視鏡」「PCI」といった診療行為そのものが低価値なのではありません。
低価値医療は、
どの患者に、どの状況で、どの目的で、その診療を行ったか
によって決まります。
同じ画像検査でも、重大疾患を疑う患者には不可欠であり、結果が診療方針を変えない低リスク患者には低価値となります。同じ薬剤でも、適応疾患には有効であり、適応外の症状に惰性的に使えば低価値になります。
したがって、優先順位を決める際には、診療行為の名称ではなく、患者条件、除外条件、実施時期、頻度、目的を含めて定義しなければなりません。
減らしやすさと患者への害を重視する
低価値医療対策では、高額な医療ばかりが注目されがちです。
しかし、日本の研究では、一件当たりの費用が比較的小さい診療が、件数と総費用の大部分を占めていました。
最初に取り組むべきなのは、必ずしも一件当たりの価格が最も高い医療ではありません。
- 実施頻度が高い
- 利益が乏しいという根拠が比較的確実
- 患者への害がある
- 対象患者を明確に定義できる
- 代替となる診療が存在する
- 診療行動を変える方法がある
という条件を満たす診療です。
この観点からは、急性気道感染症への抗菌薬、非神経障害性腰痛へのプレガバリン、赤旗所見のない腰痛への早期画像検査、神経根症のない腰痛への注射療法が、最初の有力候補になります。
低価値医療を減らすことは、医療を減らすことではない
低価値医療の削減は、単に検査や処方の件数を減らすことではありません。
有効性の乏しい診療を減らし、その代わりに、
- 丁寧な診察
- 自然経過の説明
- 患者の不安への対応
- 生活・運動指導
- 適切な経過観察
- 悪化時の再診基準
- より有効な治療への置き換え
を提供することです。
デ・インプリメンテーション研究では、薬剤使用、とくに抗菌薬やオピオイドの削減には一定の成果が認められています。一方、検査や画像診断では効果が一貫せず、教育だけでなく、診療フローや情報システムの変更、患者とのコミュニケーション、関係者間の連携を組み合わせることが重要とされています。(スプリンガーリンク)
低価値医療を減らすために必要なのは、「何もしないこと」ではありません。
検査や処方を行わない理由を説明し、その代わりに何を行うのかを示すことです。
医療者が「検査をしないこと」「処方しないこと」を患者に説明でき、その判断を患者と医療制度が支えられる環境をつくること。それが、低価値医療を減らし、必要な医療を守るための出発点になります。
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※この記事はAI共創型コンテンツです。
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